映画「夢みる小学校」を観て

 「夢みる小学校」という映画を観てきました。


映画に登場する「きのくに子どもの村学園」では、一般的な学校のようにずっと椅子に座って先生の話を聞いている授業中心ではなく、「プロジェクト」と呼ばれる体験学習が柱になっています。学校の遊具をつくったり、机や椅子をつくったり、畑を耕して蕎麦の種を撒いて育てて、収穫して蕎麦を打ったり。修学旅行も自分たちで計画を立て、日程や予算を考えたり、旅行先に電話をかけたり。「先生」と呼ばれる存在はおらず、「大人」と呼ばれるそうです。全校ミーティングでは誰でもどんな議題でも出せて、多数決では大人も子どもも、いわゆる校長も、みんな一票ずつ。

そういうような学校があることは知っていて、なんとなく想像はつくのでいそがしい時期に見に行かなくてもいいかなぁとも一瞬思ったのですが、見に行って大正解でした。映像で見るインパクトはやっぱりすごいです。涙腺がゆるみっぱなしで、子どものときに我慢してきたこととか、やりたいけどできなかったこととか、そういうようなものが浮き彫りにされて、浄化された感じもしました。

ここにいると自分でいられる、と、理事長に言いにきた子どもの話がありました。自分が自分でいられる場所があるかないかは、とても大事な問題です。映画にでてくる子どもたちは自分らしく輝いていました。一般的な学校では、上から目線で評価されたり比べられたりして不足感・無価値感を植え付けられたり、自分をそのまま受け入れてもらえない不信感をつのらせたり、自分をありのままに表現すると批判されたり無視されたり攻撃されたりする恐怖心がつきまとったりしがちですが、きのくに子どもの村学園の子どもたちの様子を見ると、そういう余計なものを植え付けられず、周りの子どもや大人に心を開いてオープンに自分を表現しているのが印象的でした。人間に対する信頼、自分に対する信頼…それを子どもの頃に自分の奥深くで感じられるかどうかは、その後の人生においてもとても大きなことだと思います。

職員室で、先生の膝に乗ったり肩車してもらったり、授業中に疲れたら廊下に出て寝転んで休んでもOKだったり、普通の学校では見たことのない光景です。一般的な学校の「先生」は上から目線で「生徒」を指導したり偉そうに振る舞いがちですが、きのくにの大人と子どもは見るからに対等です。どうしてきのくにの大人になることにしたのかを子どもたちに話す大人たちと、それを聞く子どもたちの様子は、先に生まれてちょっと経験の多い仲良しの友だちの話を聞くような感じで、いわゆる先生と生徒の会話という感じでは全くなく、この感じが伝わってくるのは、やっぱり映像の力だと思います。

映画の途中で、そうか、ぼくは「ひとりきのくに」をしているようなものかもしれないと思いました。香川に移住してから、畑と田んぼをはじめたり、木工をしたり、野菜や野草の料理をつくったり、その様子や報告をブログに書いたり。きのくにのプロジェクトには、ファーム、キッチン、クラフト、工務店、演劇などがあるそうです。ぼくがやってるのと一緒です。演劇はやってないなぁ、と思ったけど、モノマネはしょっちゅうやってるので、これが演劇に相当するかも。きのくにではどれか一つを選ぶそうですが(途中で変更もできるのだと思いますが)、ぼくはどれもこれも一気にやろうとして、疲れすぎてどれもどっちつかずになるようなこともあって、プロジェクトやりすぎ注意かも、とも思いました。

キャスト(コメント)で登場する辻信一さんが、きのくにの子どもたちは暮らしの中からの学びを得ている、というような話をされていましたが、まさに、ぼくも暮らしのことをいろいろ始めて急に学びが深まり、広まった気がしています。暮らしのことをちゃんとやり始めてようやく人間になってきた、という感じがすることがよくありましたが、暮らしの土台になるようなことを子どもの頃から体験できるのは、本当に貴重なことだと思います。今さらうらやましがっても仕方ないですが、こんな学校に通えていいなぁ、と思いました。学校への恨みはもうだいぶ手放したつもりでいましたが、こんな夢のような学校の映像を見ると、もやっとしたものが出てきました。きのくにに入りたくなりましたが、年齢制限があるので今からでは無理です。というわけで、「ひとりきのくに」を続けていきます。「ひとりきのくに」は、プロジェクトも自由でいくつ掛け持ちしてもよくて、時間割も完全自由で卒業もありません(きのくにの子どもたちは、ずっと通っていたいほど楽しいようで、卒業した後で大人として戻ってくる方もいます)。「ひとりきのくに」に足りないのは、「ひとり」だから仕方ないわけですが、大勢の仲間かもしれません。映画を観たあと、「ホームシック」ならぬ「きのくにシック」をちょっと感じました。

きのくにのことばかり書きましたが、他にも素敵な夢見る学校が登場します。

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