「数学する身体」(森田真生 著)という本を読んだ。
その中で、「人工進化」と呼ばれる分野の研究が紹介されていて、面白かった。
人工進化というのは、「自然界の進化の仕組みに着想を得たアルゴリズムで、人工的に、多くの場合はコンピュータの中の仮想的なエージェントを進化させる方法のこと」らしい。
簡潔に説明するとこういうことらしいが、次の段落で、もっとに具体的に説明してくれている。
森田真生さんは、東京大学理学部数学科を卒業後、独立し、現在は京都を拠点に、在野で研究活動を続けるかたわら、全国各地で「数学の演奏会」や「大人のための数学講座」などのライブ活動を行われているらしい。守田さんのライブを聞いたら誰でも数学が好きになる、というような話を聞き、最近そろばんを始めて数学への興味が増していたこともあり、読んでみたくなった。
「人工進化」の話に戻るが、紹介されているのは、イギリスのエイドリアン・トンプソンとサセックス大学の研究グループによる「進化電子工学」の研究。
研究課題は、異なる音程の2つのブザーを聞き分けるチップを「人工進化」の方法によってつくること。
研究の結果、約4000世代の「進化」のあとに、タスクをこなすチップが得られた。そのチップを調べてみると、奇妙なことがわかった。そのチップは100個ある「論理ブロック」のうち、37個しか使っておらず、人間が設計した場合に最低限必要とされる論理ブロックの数を下回り、普通に考えると機能するはずがないという。さらに不思議なことに、そのうちの5つの論理ブロックは、他の論理ブロックとつながっておらず、孤立した論理ブロックは何の機能も果たしていないはずなのに、その5つのどれを取り除いても回路が働かなくなったらしい。
研究グループは、この奇妙なチップを詳細に調べたところ、人間がつくるときには通常ノイズとして排除する電磁的な漏出や磁束を巧みに利用し、タスクをこなすための機能的な役割をそれらが果たしていることがわかったという。
物理世界の中を進化してきた生命現象としてのヒトもまた、その例外ではないと、森田さんは考察する。
誰かが偉大なことを成し遂げたとする。それを成し遂げることができた原因や理由を人は求める。その人の才能、努力、努力の方法、周囲のサポート…。もちろん、いろいろな「リソース」が組み合わさった結果、その偉業は達成できたのだろうけれど、もしかすると、毎日の朝食で食べていた梅干しがなければそれは達成できなかったということもあり得るかもしれない(おかしな例だけど)。
頭だけで考えていても前に進めなくてらちが明かないけれど、散歩したり畑仕事したりすると簡単に解決したり問題自体がどうでもよくなった、ということもあるだろう。ある時、ノートに文章を書きながら何かを考察して、行き詰って散歩に行き、公園で続きを書いたら、それまで書いていたこと自体がどうでもよくなり、続きはまったく違う話に展開していったことがあり、人間、頭の中だけで考えているわけではないのだと思ったことがある。
問題を解決しようとして頭で行き詰ったら、身体を動かしたり、身体に働きかけたり、環境を変えたりすることで、案外簡単に解決するかもしれない。
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by 硲 允(about me)
twitter (@HazamaMakoto)
その中で、「人工進化」と呼ばれる分野の研究が紹介されていて、面白かった。
人工進化というのは、「自然界の進化の仕組みに着想を得たアルゴリズムで、人工的に、多くの場合はコンピュータの中の仮想的なエージェントを進化させる方法のこと」らしい。
簡潔に説明するとこういうことらしいが、次の段落で、もっとに具体的に説明してくれている。
何かしら最適化問題を解く必要があったとしよう。普通であれば、人間が知恵を絞って、計算や試行錯誤を繰り返しながら解を探すところだが、人工進化の発想はそうではない。まずはじめに、ランダムな解の候補を大量にコンピュータの中で生成する。その上で、それらの中から目標に照らして、相対的に優秀な解の候補をいくつか選び出す。そうして、それらの比較的優秀な解の候補を元にして、さらに「次世代」の解を生成していく。(p. 32)こう書き写してみると、いかに簡潔でムダのない文章であるかを改めて感じた。一冊全体を通じて、そんな感じである。難しそうなことを難しげに書いて得意になっている本が多いなか、この本は、難しそうなことをわかりやすくシンプルな言葉で書かれていて、読んでいて清々しい。
森田真生さんは、東京大学理学部数学科を卒業後、独立し、現在は京都を拠点に、在野で研究活動を続けるかたわら、全国各地で「数学の演奏会」や「大人のための数学講座」などのライブ活動を行われているらしい。守田さんのライブを聞いたら誰でも数学が好きになる、というような話を聞き、最近そろばんを始めて数学への興味が増していたこともあり、読んでみたくなった。
「人工進化」の話に戻るが、紹介されているのは、イギリスのエイドリアン・トンプソンとサセックス大学の研究グループによる「進化電子工学」の研究。
研究課題は、異なる音程の2つのブザーを聞き分けるチップを「人工進化」の方法によってつくること。
研究の結果、約4000世代の「進化」のあとに、タスクをこなすチップが得られた。そのチップを調べてみると、奇妙なことがわかった。そのチップは100個ある「論理ブロック」のうち、37個しか使っておらず、人間が設計した場合に最低限必要とされる論理ブロックの数を下回り、普通に考えると機能するはずがないという。さらに不思議なことに、そのうちの5つの論理ブロックは、他の論理ブロックとつながっておらず、孤立した論理ブロックは何の機能も果たしていないはずなのに、その5つのどれを取り除いても回路が働かなくなったらしい。
研究グループは、この奇妙なチップを詳細に調べたところ、人間がつくるときには通常ノイズとして排除する電磁的な漏出や磁束を巧みに利用し、タスクをこなすための機能的な役割をそれらが果たしていることがわかったという。
設計者のいない、ボトムアップの進化の過程では、使えるものは、見境なくなんでも使われる。結果として、リソースは身体や環境に散らばり、ノイズとの区別が曖昧になる。どこまでが問題解決をしている主体で、どこからがその環境なのかということが、判然としないまま雑じりあう。(p. 35)
物理世界の中を進化してきた生命現象としてのヒトもまた、その例外ではないと、森田さんは考察する。
ともするとヒトの思考のリソースは頭蓋骨の中の脳みそであって、身体の外側はノイズであり、環境である、と思われがちだが、簡単な電子チップですら、その問題解決のリソースは、いともたやすく環境に漏れ出してしまうのである。だとすれば、四十億年の進化プロセスを生き残ってきた私たちの「問題解決のためのリソース」は、もっとはるかに身体や環境のあちこちに沁み出しているはずである。(p. 35-36)なるほどー、そうやろなぁ~、と思った。かちこちになった頭をほぐしたくなる話だった。問題の原因や、問題解決のプロセスや結果を人間は分析してはっきりさせたがるが、実は、主要で明らかになっている原因やプロセスの他に、それがなければ問題解決が成立しない「ノイズ」のようなものが潜んでいることが多々あるのではないかと思う。
誰かが偉大なことを成し遂げたとする。それを成し遂げることができた原因や理由を人は求める。その人の才能、努力、努力の方法、周囲のサポート…。もちろん、いろいろな「リソース」が組み合わさった結果、その偉業は達成できたのだろうけれど、もしかすると、毎日の朝食で食べていた梅干しがなければそれは達成できなかったということもあり得るかもしれない(おかしな例だけど)。
頭だけで考えていても前に進めなくてらちが明かないけれど、散歩したり畑仕事したりすると簡単に解決したり問題自体がどうでもよくなった、ということもあるだろう。ある時、ノートに文章を書きながら何かを考察して、行き詰って散歩に行き、公園で続きを書いたら、それまで書いていたこと自体がどうでもよくなり、続きはまったく違う話に展開していったことがあり、人間、頭の中だけで考えているわけではないのだと思ったことがある。
問題を解決しようとして頭で行き詰ったら、身体を動かしたり、身体に働きかけたり、環境を変えたりすることで、案外簡単に解決するかもしれない。
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by 硲 允(about me)
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