大地


畑の土を踏まない日がつづくと、どうもふわふわ、地に足の着かない感じのすることがある。頭にばっかり血が行く感じがする。

大地を踏む安心感というのを、この地上で生きてきて、30年近く経ってかっらようやく身を持って知った。この感覚を日々味わわずに生きていくのはあまりに心細い。それが極まって、何でもお金で解決しようという作戦に出る人の気持ちもある程度想像がつく。

自分の自由になる土地があり、食べものの種があれば、最低限生きていける、という感覚。

それに、きれいな空気と水と、太陽の光も。

それさえあれば、最低限、といわず、喜びの中で生きていける。

種を蒔いて、野菜や穀物が育つのを待ちながら、いろんな草や花や虫たちの共演を楽しみながら草地で寝ころんで過ごす時間の平和さ。お腹がすけば、そこに育った野菜を摘んで口に入れる。太陽の熱であたたまったトマトで喉を潤す。

最近の畑仕事は、そんな感覚に近い。朝起きて、ゴーヤとバナナと豆乳をミキサーにかけたジュースだけ飲み、畑に飛び出して行く。田んぼの草刈りをし、喉が乾いたら稲の横で育ったミニトマトを口に入れ、お腹がすいたらモロヘイヤや空芯菜を摘んで食べる。何の過不足も感じることのない時間。

大地さえあれば、なんとでもなる。なんとでもしていける。だからこそ、美しい大地を守らなければならない。自分一人だけではどうにもならないこともある。だけど、あらゆることは自分にとっては自分一人から始まる。


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by 硲 允(about me)