無農薬野菜の販売を始めました@ちろりん村(香川県高松市)

東京から香川に移住して、田畑のある暮らしを始めて今年で6年目。東京でも小さな畑を借りていたので、畑の野菜と付き合い始めてから8年くらい。野菜を育てるのは自分たちが食べる分、と思っていて、「出荷しないの?」と時々きかれることがあってもあまりその気にはならなかったのですが、人間、時が経てば何を始めるかわからないものです。

うちの畑は、大型の農場とは違って、トラクターも耕運機も、マルチなどのプラスチック資材も使わずに野菜を育てています(育苗ポットは使います)。道具といえば、動力を使うものでは草刈り機(刈払機)は使いますが、あとは人力頼りの鎌、鍬、スコップくらいのもので、ひたすら手作業で種まき、草刈りの畑仕事です。野菜の種はどれも固定種(在来種) or 固定種(在来種)を自家採種した種で、F1種のように販売効率を考えられた品種ではないので、成長が比較的ゆっくりだったり、実をやたらとつけたりせず、見るからに自然なペースで、自然な様子で育っていきます。身体はなるべく自然に沿った、生命力のあるもので養いたいので、固定種(在来種)の種にこだわり続けています。

ぼくは自然農法を提唱した福岡正信さんの本を読んで農に興味を持ち、そこからスタートしたので、畑を始めて7年くらいは、無農薬はもちろん、完全に無肥料(植物性堆肥なども不使用)で試みてきました。その結果、最初はまともに育つのは豆類や、その土地のもともとの土壌にたまたま合った品種(香川では大根はそこそこ、葉物は小さいながらに、人参も意外に)で、肥料分がたくさん必要とされるナスなどの夏の果菜類は肌寒くなる頃にようやくポツポツと収穫できる、という感じでした。これでは日々、何時間も畑仕事をしているのに、草を刈ってばかりで、野菜を育てているというか草刈り道場という感じでした。

安心して使える肥料や堆肥があれば、使ってみることも検討したのですが、なかなか納得できるものに出会えず、自家製堆肥をつくる余裕もなく、実りの少ない農法を半ば修行のつもりで続けてきたわけですが、香川に来て6年目の今年、農薬や放射能、その他の有害物質の心配のないバーク堆肥と出会い、果菜類に用いてみたところ、今までと成長がまるで違い、これまでいかに、過酷な環境で育ってくれていたかを知りました。今年は夏野菜が自分たちで食べきれないくらいたくさん育ち、普段、お世話になっている方たちにおすそ分けできる喜びも味わうことができました。

基本的に自給用、ということで、手間暇を惜しまない方法で野菜たちを育てているので、販売することは躊躇していたのですが、いろんな方にうちの野菜を味わってもらいたい、という気持ちもどこかにありました。なるべく自然環境に負担をかけず、自然の摂理に沿って育った野菜は味わいが違います(うちの野菜に限らず)。この美味しさを知ったら、人生、変わるんじゃないか、と大げさではなく思うこともあります。生きている間にこの美味しさを知って、こういう食事ができるようになってよかったなぁ、と思うこともよくあります。何を食べるかで、身体の快適さ、頭や心や直感力の働きなども、ずいぶん違ってきます。人の身体や心の健康や、人生の喜び、満足感の向上に寄与し得るものをつくって販売するのは、喜びの多い仕事ではないかと思います。

野菜を販売するなら、自分たちの想いや考えに共感していただけて、子どものように大事に育ててきた野菜を大事に扱っていただけるお店がいいなぁと思っていました。そんなお店が、高松にあるんです。香川に移住する前からお世話になっていた、「ちろりん村」です。こちらのお店の品揃えは、かなり本気で、店長の大西さんと、いつも立ち話で盛り上がり、話の流れで、うちの野菜を取り扱っていただけることになりました。食は命の要…香川に移住する際、こういうお店が行ける場所にあれば安心、と心強く思ったものですが、そのお店で、自分の畑で育った野菜を置いてもらえることになるとは当時は思いもよらず、感慨深いものがあります。

野菜を販売する際、うちの畑の野菜だとひと目でわかるラベルがあったほうがいいなぁと思い、相方がデザインしてつくってくれました。


農園名もあったほうがいいなぁ、ということで、このブログの「珍妙雑記帖」とそろえて、「珍妙畑」としました。どこが珍妙かというと、円い畑だし、一列にざーっと同じ野菜が並んでいるのではなくていろんな野菜が混在して森のようになっているし、半分野生化して勝手に生えたような大根や白い人参がいたり、野菜の横で陸稲が育っていたり、まぁ、珍妙といえば珍妙だろうと思います。

2019年9月29日の本日、人生初、野菜の出荷。


空芯菜、ツルムラサキ、ナス、ゴーヤ、きゅうり、ささげ、オクラ、スイートバジル、ホーリーバジル、エゴマ。ちろりん村店長の大西さんが、ぼくたちの野菜のイメージに合わせて、自然素材のかごを選んで陳列用にわざわざ持ってきてくれるのを見て、本当にありがたい気持ちになりました。

どんな方たちの元へ行くのだろう、と想像すると、わくわく。美味しく食べてもらえるかなぁ、と、野菜さんたちもドキドキしていることでしょう。誰かの喜びにつながりますように。

初心を忘れずに、ぼちぼちと、マイペースで野菜の販売を続けていきたいと思っています。


【関連記事】

by 硲 允(about me)