接客業というのは大変な仕事だろうなぁと思う。ぼくには到底務まらなさそうだけど、現代社会で生きていると接客してくれる方のお世話にはしょっちゅうなっている。
だいぶ前に買った初代iPod miniを久しぶりにパソコンに接続すると、発火のおそれがあるから無料で交換してくれるというメッセージが出た。Apple社のサポートセンターに電話してみると、用件も何も聞かずにいきなりこっちのフルネームを訊かれた。取り調べみたいで気に入らず、名前を名乗らずに用件を伝えた。出だしが不快だったけれど、その後は丁寧に対応していただいた。最後に、「私を含めて、Appleのカスタマーサービスでよくないところがあったら教えてください」と言われ、最初に不快に思ったことを言おうかと迷ったけれど、全体的にとても丁寧に対応していただいたので指摘する気になれず、とっさに「特にありません」と答えてしまった。カスタマーサービスの電話で最初にいきなりフルネームを訊くのは、アメリカの本社のマニュアルから入ってきたものかもしれないと思った。アメリカのカスタマーセンターに実際に電話を掛けたことはないけれど、英語の学習書に出てくる問題文でそういうのをよく見かけるような気がする。電話で対応してくれた方の問題ではなく、会社のマニュアルによるものであり、そのせいでこれからも別の客を不快にしてはもったいないので、遠慮なく指摘しておけばよかったと後から反省した。
最近、ケータイをなくして近所のケータイショップに行った。なくしたことを伝えた後、ケータイを入れてベルトやかばんにつなぐケースを見ていると、「なくされたことですし、あったほうがいいと思いますよ」と言われた。そんなふうに言われると、必要なものであったとしても買いたくなくなる。ケータイのプランについて相談していると、いろんなオプションについて、「数百円のことですし」と何度も言われた。ケータイの料金は数百円の積み重ねで決まってくる。それを「数百円のことですし」で何でも付けていたらどんどん料金が膨れ上がってくる。これもマニュアルで言うように決められているのかもしれないけれど、「数百円のことですし」と言われて、「それもそうだな」と思う人よりも不快に思う人のほうが多いのではないだろうか。人間をバカにしているようなマニュアルは多い。
相方にそんなことを話すと、ケータイショップの店員さんは会社から大事にされていないのだろうと言った。たしかにそんなふうに見える。不満そうに働いている方が多い。会社で大事にされないと気持ちが荒れてきて、客に親切に対応する気になれなくなってくるのは想像できる。社員を大事にすれば、社員が気持ちよく働けて客の満足度が高まり、結果的に会社の経営も上手くいくだろうというようなことを相方は話した。ケータイショップの店員さんの対応がわるくて別の会社のケータイに替えた、という話も聞く。客と直接顔を合わせて接客する社員は重要な役割を担っているけれど、安いお金で働かされて大事にされていないことが多いようだ。そのへんは会社によって傾向があるように見える。別の業種だけど、スターバックスの店員さんは他のコーヒーチェーン店に比べて、どこの店舗に行っても生き生きと働いている方が多く、どうしてなんだろうと不思議に思うことがよくある。
結局、新しいケータイはケータイショップで買わず、電気屋で買った。電気屋の店員さんはとても親切で、そこで買ってよかったと思った。ものを誰かから買うとき、そのとき限りで終わりではなく、そのものを後で見ているときや使っているときも、販売してくれた方のことや買ったときの気持ちを思い出すことがある。誰から直接買ったかによって、買ったものに対する愛着が違ってくる。接客業というのは大変な仕事だと思うけれど、そんな中でも心を込めて仕事をされている方を見るとすごいなぁと思い、ぼくも頑張ろうと思えてくる。
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