「家庭教育支援法案」に反対。家庭教育にまで国家が介入しようとしている



「家庭教育支援法案」というものを自民党が国会に提出しようとしているらしい。

2016年10月の段階における素案の全文が以下のサイトに掲載されている(その後、一部の文言が削除されたり変更が加えられているようだが、本来の狙いは最初の段階の素案に表れやすい)。

家庭教育支援法案(仮称)」未定稿(2016年10月20日) – 24条変えさせないキャンペーン

この法案の内容について、現代ビジネスの記事がこうまとめている。

*家庭教育支援法案―― 上意下達の体制
・家庭教育支援の基本方向と具体的内容は文部科学大臣が定める(第9条)。
・学校および住民は、国に協力すること(第5・6条)。
・国は、保護者に学習の機会を与え(第11条)、広報・啓発活動を行う(第14条)。
・家庭教育は、保護者の第一義的責任において行う(第2条)。

国家が家族に介入って…「家庭教育支援法案」が描く恐怖の未来図(大前 治) | 現代ビジネス | 講談社(2/4)より
自民党の憲法改正草案を想起させる内容だ。家庭でどんな教育を行うかを政府が決め、保護者はそれに従う責任がある、としている。国家が決めた家庭での教育方針を、学校・住民・保護者に有無を言わさず押し付けることのできる内容となっている。

素案の第2条にはこう書かれている。

2 家庭教育支援は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、社会の基礎的な集団である家族が共同生活を営む場である家庭において、父母その他の保護者が子に社会との関わりを自覚させ、子の人格形成の基礎を培い、子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにすることができるよう環境の整備を図ることを旨として行われなければならない。
「子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるように」とのことだが、つまり、国家に都合のいい人間をつくることに利用できる法案となっている。

さらにこう続く。

3 家庭教育支援は、家庭教育を通じて、父母その他の保護者が子育ての意義についての理解を深め、かつ、子育てに伴う喜びを実感できるように配慮して行われなければならない。
「子育てに伴う喜びを実感できるように」とあるが、余計なお世話だ。どういう子育てをすれば喜びを実感できるかは、人それぞれであり、家庭内でどういう子育てをするかはそれぞれの個人に任せるべきである。「家庭内でこういう教育をしろ」「喜びを実感できるようにしてやるから」というのは、国家による個人への価値観の押し付けが甚だしい。

この法案の目的として、「同一の世帯に属する家族の構成員の数が減少したこと、家族が共に過ごす時間が短くなったこと、家庭と地域社会との関係が希薄になったこと等の家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育を支援することが緊要な課題となっていることに鑑み・・・」と書かれているが、日本教育学会会長で日大教授の広田照幸さんは、「そもそも『日本の家庭は伝統的に子供への教育がしっかりしていた』という言説自体がうそです。昔の日本の子育ては『放任』が一般的でした」と指摘している。

特集ワイド:「家庭教育支援法」成立目指す自民 「伝統的家族」なる幻想 家族の絆弱まり、家庭の教育力低下--!? - 毎日新聞

自由法曹団は、以下のように指摘している。

教育の支援が緊要な課題である根拠としてあげるのは「家族の構成員の数が減少」「家族が共に過ごす時間が短くなった」「家庭と地域社会との関係が希薄になった」という抽象的なことばかりであり、なぜ児童手当や給付型奨学金の充実等子どもが育ちやすい環境の整備ではなく「家庭教育」の支援が必要であるのか具体的には何ら述べられていない。
それにもかかわらず本法案は、基本理念で、「家庭教育」の位置づけとして、「父母その他の保護者の第一義的責任において、父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めることにより行われるものである」と規定し、あるべき「家庭教育」に踏み込んでいる。
このような本法案の構成からは、「家庭教育」の名の下に、国が家庭に介入する仕組みをつくるという結論ありきの法案、と言わざるを得ない。
「家庭教育支援法案の提出に反対する」より
すっきりとした説明である。法律の構成から、その裏の真意を読み取ることができるのは、さすが法曹団という感じがする。

自由法曹団はこうも指摘している。
法案が示すあるべき「家庭教育」や「標準的」な家族像は、性別による役割や家族の役割を固定化し、結婚しない生き方、子どもを産まない生き方、同性パートナーと歩む生き方など多様な生き方を否定するのであり、また、国民を戦争に総動員し戦時体制を支える役割を担った戦前の家庭教育に通じるものであることから、到底許されるものではない。
ぼくの生き方は確実に否定されるものだろう。個人の多様な生き方に口出しするような法律をつくらせるわけにはいかない。

そもそも、このような法律は憲法違反だと、自由法曹団は指摘している。

国が求める『家族』が個人よりも優先される思想に基づくもので、家庭のなかでの男女平等や個人の尊厳を謳っている憲法第24条に反する考え方であり、到底容認することはできない。

自民党に加えて、小池百合子氏も推進派だとされている。この法案については最近はあまり報じられていないようだが、看過できない内容であり、家庭内にまで土足で踏み込もうとするような国家権力の暴走を止めなければならない。


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by 硲 允(about me)
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