「自由に生きていいんだよ お金にしばられずに生きる"奇跡の村"へようこそ」(森本喜久男 ,高世仁 著)を読んで。

「自由に生きていいんだよ お金にしばられずに生きる"奇跡の村"へようこそ」(森本喜久男  、 聞き手: 高世 仁)という本を読んだ。


森本喜久男さんは、かつて京都の友禅職人をされていたが、いろいろあってその後タイに移住し、カンボジアの伝統の絣に感銘を受けたのがきっかけとなりカンボジアで伝統の絹織物を復活させるIKTTを設立。もともと荒れ地だった場所に森をつくり、織物の村をつくられた。

「自由に生きていいんだよ」というタイトル通り、生き方について考えさせられるようなお話が多い。面白くて、最初から最後まで夢中で読み通した。こういう話を学生の頃に読めたらよかったなぁと思う。学校では自由に生きるとはどういうことかについて教わらないし、その方法やヒントもほとんど得られなかった。自由に生きる大人のモデルが少なすぎる。

「百姓のすすめ」という章で、就職をどうしようか、将来どんな仕事をしようかと迷っている人に対し、森本さんは就職活動なんてやらなくていいからまず3年間農業をやれと勧めている。土と触れて自然と向き合うと、そこで見えてくるものがあるはずで、自分がほんとうに何をやりたいかも見えてくるという。

農業をやるとね、自分を信じることができる。自分の手で、鍬を持って土を耕し、種を播き、苗を植えて、育てる。植物を育てることは、ものを創造すること。アートと一緒だと思う。芸術なんだよね。水をやって土を耕してケアしてやると、植物はやっぱり生き物だからそれに応えてくれる。その喜びを知るってことは、自分がものをつくることができたという経験になり自信になる。(p. 51)

そう言われてみて、なるほどと思った。ぼくも野菜やお米づくりをはじめて、いつの間にかそういう自信がついてきた。「ものをつくる」といっても、自分が感動できないものをつくってもあまり自信にはならないと思うが、植物を育てると、その美しさや力強さに感動する。それは植物や大地や水や、自然のあらゆる力によって生まれたものであるが、そこには自分の力も加わっている。そのような感動できるものを自分がつくったんだという深く大きな喜びが感じられ、それが深い自信につながるのだろうと感じる。

IKTTには、生き方を模索する若者もたくさん訪れるという。森本さん曰く、日本の若い人は個性を大事に、と言いながら自分の個性がわからずに悩むが、「個性、適性というのは、集団の中で具体的にいろいろやってみて、その結果としてはじめて分かる」という。

また、身体を動かしながら考え、日常とは違った環境に身を置く旅の重要性を説く一方で、「図書館での旅」、知の旅を勧めるところに森本さんのバランス感覚を感じる。

ものごとを考えるときに、「鳥の目」と「虫の目」の両方を使うという話も印象に残った。

鳥が空から見るように、大きく世界を俯瞰する幅広い知識、それから地べたを這う虫のように自分の足元をしっかり見つめる観察力。それを両方使って考える。(p. 186)
この両方を使ってきたからこそ、森本さんは当初、周りに不可能と言われたようなことを成し遂げることができたのだと思う。

東京にいた頃、無印良品のイベントで森本さんのお話をうかがったことがある。もっとお話をお聞きしたかった。残念ながら森本さんは2017年に亡くなられたが、この本を読むと、森本さんの声が聞こえてくる。対談のお相手の高世仁さんとは以前から親しくされていたようで、ざっくばらんな語りが心地よく、あっという間に読み終えてしまった。何度も読み返したい一冊。


by 硲 允(about me)