『無肥料栽培を実現する本』(岡本よりたか 著)を読んで。自然の摂理を知るための一冊

『無肥料栽培を実現する本』(岡本よりたか 著)を読んだ。



読み終えた後、「畑を始める前にこの本に出会えてたらよかったのに」と思った。発行されたのが2017年なので、畑を始めたときにはまだ世に出ていなかったわけだけど・・・。

ぼくは、自然農を提唱された福岡正信さんの理論に触れてから畑を始め、それを浅くしか理解していなかったので、とにかく農薬も肥料の与えずに自然のままにしておけば野菜は育つと思っていたが、数年やってみて、なるべく自然な状態で野菜を育てるには高度な技術や知恵が必要なことがよくわかった。

種を撒いて、草を刈ってさえいればいいのだと思ったが、そんなに簡単にはいかなかった。「自然栽培」や「自然農法」というのは、「ほったらかし農法」とは違う。自然に寄り添いながらも、人間の知恵や工夫を働かせなければうまくいかない。

本書のタイトルには「無肥料栽培」という言葉が入っており、著者の岡本よりたかさんは、「肥料」というものを次のように独自に定義されている。

肥料とは、企業が販売する化学肥料や有機肥料、あるいは家畜排せつ物を使用した肥料のことを言い、循環型農業で利用する自家製の植物性の肥料は含んでいません。米ぬかや腐葉土、草木灰、もみ殻くん炭などを利用することは、僕は決して不自然なことではないと定義しています。土壌微生物を増やすための行為までを否定するものではありません。

無肥料栽培といっても、大地に何も施さずに種を蒔いて草を刈るだけではない。ぼくはその方法で、失敗を繰り返してきた(それだけで元気に育った野菜もあるが)。

本書はコンパクトな本なのに、「無肥料栽培」を成功させるポイントがぎゅっと詰まっている印象。

第1章の基礎編では、植物が成長する仕組み、窒素や炭素の循環、植物の必須元素など、基本的な知識から始まる。無肥料栽培がなぜ可能になるかを、慣行栽培だけを長年実践してきた方に理論的に説明する際にも役立ちそうな情報が詰まっている。

第2章は「畑設計・畝づくり編」で、風や水の見方、生えている雑草によって土の状態をしる方法、それぞれの雑草の役割、土壌の酸度の確認などについて説明されている。

土壌の酸度を確認するには「酸度計」というツールがあるようで、ぼくも手に入れようと思った。


シンワ測定 土壌酸度計 A 72724

さらに、土を天地返ししたり、荒く耕したりといった土の物理的改善、有機物のすき込み、雑草たい肥やボカシ肥料のつくり方など、畝づくりの具体的な方法がわかりやすく書かれている。

ぼくも最初からこういうことをしておけばよかった、と今になって思うが、何の工夫もしなければ草や野菜がどう育つかを毎年観察してきたことで学んだことも多く、遠回りだけどそれはそれでよかったのかもしれない。

第3章は、「草を観察する 編」。「抜くべき草」と「抜かない草」に分けられ、それぞれ、抜く(抜かない)理由が書かれていて勉強になった。

ぼくは最初、どの草も抜かない方針だったが、ササやセイタカアワダチソウなど、地上部を刈るだけでは繁殖を抑えきれない植物がいることを経験的に学んだ。

この章ではほかに、草刈りの方法や、いろんな雑草の役割が紹介されている。

第4章は、「病害虫 編」。

肥料をほとんど何も施さない栽培法では、病害虫に困らされたことがないが、どんな虫がどんな役割をしているかという話は興味深かった。

アオムシとキャベツの関係についての考察も面白く、外側の葉にいるアオムシはそのままにしておいたほうがいいという(詳しくは本書で)。うちのキャベツにもアオムシが来ていたが、そのままにしておいたら、外側の葉はレース状になっていたが、内側の葉は無事だった。

第5章の「栽培編」では、ミニトマト、トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、ジャガイモ、大豆、キャベツ、ブロッコリー、カブの具体的な栽培法が紹介されていて、複数の異なる種類の野菜を一緒に育ててお互いの生育をよくする「コンパニオンプランツ」についても書かれている。

第6章は「プランター編」。自家製の土のつくり方、根のことを考えながらそれをプランターに層にして入れていく方法、プランターの土の中の微生物を守る方法、やせてしまった土のリセットなど、実践的な内容がコンパクトにまとめられている。

最後の第7章は「種編」。種の種類や基本的知識、種の形がもつ意味、種まきや種とり、種の保存の方法などが書かれている。

「無肥料栽培」に必要な情報が幅広く紹介されているにも関わらず、コンパクトな本で、読みやすく、情報を詰め込みすぎている感じがしない。

それはおそらく、岡本よりたかさんの「マニュアル」に対する考え方が反映されているのだろう。

本書は、いわゆる手順を教えるマニュアル本ではありません。あくまでも自然の摂理を知ることに重点を置きました。なぜなら、人間が作り出した効率化というシステムが、農薬や肥料を手放せなくなる呪縛を作り出してしまうからです。

読んではいけないマニュアルとは、畝の高さは何センチで、作物と作物の間隔はどれだけで、などと手順だけが書かれた本であり(それでは自然の摂理がわからず、応用も利かないという)、読んでよいマニュアルとは、「『ニンジンの種まきの方法を、ニンジンの種に聞く方法を教えてくれる』マニュアル」だという。

そういう哲学が根底に感じられる一冊だった。面白くて一気に通読したが、秋の種まきが始まる前にもう一度読みたいと思っている。