「うどんを噛むのは県外の人間」?あるうどん屋での出来事

「うどんを噛むのは県外の人間や」

あるうどん屋でおむすびを食べていると、隣の席からそう話す女性の声が聞こえてきた。

ぼくはうどんをあまり噛まずに食べるとお腹の調子がわるくなることがあるので、なるべくよく噛むように心がけている。

県境で人間を区別するのが危険だと思った。こういう考えは、国境で人間を区別し、自国のためなら他国の人間を攻撃してもいいという思想につながりかねない。

自分の本質的なところに自信がもてないと、そういう考えに陥りがちなのだろうと思う。自分の「ラベル」でなんとかプライドを保とうとする。

香川県民であることに誇りをもち、うどんを噛まずに飲み込むことに誇りをもつ。誇らしき、うどん県民。

その女性は、娘さんにもうどんを噛まずに飲み込むことを勧めていて、お腹に負担がかかるのに、と思って気の毒になった。娘さんがうどんを食べる様子を見て、「ほら、噛んでるやろ!」と指摘している。

おむすびを食べ終えた頃に、醤油うどんが運ばれてきた。この女性の目の届くところで食べるのは落ち着かないなぁと思っていたら、ちょうど立ち上がって帰るところだった。よく噛んで食べている相方を、娘さんがじっと見て行ったという。「うどんをよく噛んでるなぁ。県外の人間かなぁ」と思ったかもしれない。排他的な思想は伝染しやすい。

その女性は、帰り際、「お腹苦しいわー」と言うのが聞こえてきて、ちょっと笑ってしまいそうになった。やっぱりうどんはよく噛んだほうが健康にはよさそうだ。

その家族がいなくなり、心おきなく生醤油うどんをよく噛んでゆっくりと食べた。


【関連記事】

by 硲 允(about me)
twitter (@HazamaMakoto