歩いて家に帰る途中、大学生の頃にお世話になったC先生に出くわした。
ぼくは滑るように歩いていたが、C先生もいつものように急いでいるようだ。C先生はぼくの前を半ば駆け足で歩いていたが、急に立ち止まり、通りの家の庭で育つ木の赤い花の匂いをかぎ始めた。その花はもう枯れていた。
「もう枯れてますけど、匂いしますか?」
「うん」とうれしそうに答えた。
ぼくも鼻を近づけてみたけれど、匂いはわずかにしか感じられなかった。
C先生はまた早足で前に進み出した。別の家の庭でまた同じ花が咲いていた。C先生は再び立ち止まり、花の近くに行き、ぼくにはよくわからない話をしはじめた。
「ほら…あのテレビ番組、何ていうんだっけ? 知ってるでしょ? ほら、あったじゃない?」
ぼくには全く心当たりがなかったが、全く知らないと答えるわけにもいかないほどC先生は一人で盛り上がっていた。
「When your collar is loosened, your heart is feeling.」
C先生は突然そんなフレーズを英語で口に出した。パキっとアイロンのかかったシャツを着た誰かの襟元が目に浮かんだ。
「襟がゆるんだとき、その人は心で感じられている、っていうことですか?」
「そう」
C先生はちょっと照れたように顔をくしゅっと崩し、ぼくの家とは違う方向へ足早に去っていった。居合わせたのはわずかな時間だったが、その間に一つでも役立つフレーズを教えようとしてくれたようだった。
そこでぼくは目が覚めた。聞いたことのないフレーズだけど、なかなかいい表現だと思い、ブログに書き残しておこうと考えた。
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by 硲 允(about me)