『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』(グラフィック社)を読んで。

『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』(グラフィック社)という本を読んだ。




柚木沙弥郎さんの作品は、どこか楽しげで、解放されていて、「見たくなる」。上手だけど見たくならない作品、というのも世の中には多いが、「見たくなる」のはなぜだろう。

この本の最後に、「年を重ねて、今思うこと」という柚木さんの文章が掲載されている。これを読んで、その一端が垣間見られたような気がした。

柚木さんはある時、友人に誘われて、米国ニューメキシコ州のサンタフェを旅された。そのときに、アーティストではない人たちがつくった人形たちを見て心が踊ったという。そのつくり手たちは、金持ちでもなく、しかし、心の中は豊かで日常の生活を楽しく過ごしていた。

私はこの旅に出るまで、自分の仕事について行き詰まりを感じていた。染色の仕事をやめようかと迷っていた。ちょうど年齢は還暦の頃である。このまま染色を続ければ、あとはマンネリになり、自己模倣の繰り返しになるばかりだと。
そんな時、サンタフェに来て気がついた。「何をやってもいいんだ。やるなら嬉しくなくちゃ、つまらない」と。自らの呪縛から解放された瞬間だった。(p. 153)

「やるなら嬉しくなくちゃ、つまらない」。なんて気持ちのいい言葉だろう。