雨水を飲む。

最近、雨水が気になる。

「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」(坂口恭平 著)という本を読んでいると、ホームレスの方たちが雨水を活用している話がいろいろでてきた。雨が降り始めてから2時間経つ頃には、雨水がきれいになって飲めるというのがホームレスの方々の体験的知識のようで、試してみたいと思った。

普段、蛇口をひねれば水が出てきて、飲水やシャワーやお風呂、歯磨きの水に困るようなことはないけど、蛇口の水が出なくなったら、どうやって生きていこうか?

朝露を集めるとか、木や草の葉っぱにビニール袋をかぶせて蒸散される水を集めるとか、雨水のほかにもいろいろ方法はありそうだけど、雨がザーザー降っているようなときには、雨水を活用するのがよさそう。

今度、雨水を集めてみよう、と思いつつ、なかなか実行に移せずにいた。そんなぼくの様子を見て、ホームレスにはマメさが必要やね、と相方は言った。たしかに…。飲水を得にくい環境で暮らしていて、雨が降っているのに呑気にして、バケツやたらいを外に出しておくのを忘れたら死活問題だ! 大きなシステムに頼らずに生きるには、マメさが必要…。

雨が降ってきた。よし、今度こそ、と思って、普通サイズのステンレスのボールを2つ、外に出しておいた。雨が降り始めてから2時間は経っているので、大丈夫なはず。途中、しばらく雨が止むとちょっと不安になってくるけど、大丈夫だろう。そんなにすぐに大気は汚れないだろう…と思うことにする。

夕方になった。暗くなる前に雨水のボール、取り込んでおいたほうがいいんじゃない?と相方が言う。そうや、そうや、マメさが必要だった。もうパソコンに向かっていたけど、マメさが必要、ということで、立ち上がって庭に出た。どれくらいたまったかなぁ…と楽しみに、ボールの中をのぞくと、案外、ちょっとだけだった。ボール満タンの十分の一にも満たないくらい。それが2個分。まぁ、初めてだからそれくらいでちょうどいいか。慣れない雨水を一気に飲みすぎても体がびっくりするかもしれない。

ボールを取り込むだけ取り込んで、パソコン仕事。

夜になった。雨水、今日中に飲んだほうがいいんじゃない?と相方。そうそう、マメ、マメ…お豆、お豆。台所の流しに放置された雨水。中には空から振ってきた落ち葉や植物の小さな破片が混ざっていたので、竹の茶こしでこした。ごく小さな破片はこしきれずに鍋に入ったが、ちょっとくらい大丈夫だろう。ホームレスの人の話では、念のために沸かしてから飲んでいるということだった。雨水初心者のぼくはなおさら慎重になったほうがいい。生の雨水の風味も気になるところだけど、しっかり沸騰させてから飲むことにした。

いつも朝の白湯を沸かすときに使っている琺瑯の片手鍋で雨水を沸かした。沸騰させた後、顔を近づけると、カルキ臭くなかった。水道水じゃないので当然なのだけど、そう思った。カルキ臭がしないのは、気持ちがいい。水道水を10分ほど沸騰させた場合でも、火力が足りないと、まだカルキ臭がすることがある。

沸かした雨水をカップに入れ、少し冷めるのを待ってから、一口すすった。おっ…。ちょっとした驚きのある味だった。わずかな苦味を舌に感じる。舌のどの部分が反応しているのか正確にはわからないが、奥の方だろうか。普段、水や白湯を飲んでも反応しない部分が反応している感じがした。この苦味はなんだろう。大気中に存在する何らかの鉱物か? 体にわるいものではないといいけど。

ごくごく飲める感じの風味ではなかった。舌や体が慣れていないだけか? 慣れない水を飲むと、体がびっくりするのだろうか。初めてペットボトル入りの硬水を飲んだときもびっくりした。水なのに牛乳のような感じがした。雨水は牛乳のような感じではない。何みたい、という何は思いつかない。

水は毎日飲むもの。白湯で飲んだり、お茶やコーヒーにしたり、ご飯を炊くときにも水を入れるし、スープもそうだし、水を使う料理は何でも。水単体でない場合、水そのものの味は意識しないが、体は感じていて、いつもの水に慣れているのだろう。体の何割は水でできている、とかいうしね。その大事な水が、いつもと違うものになると、体は敏感に反応するのだろう。

慣れない雨水をちびちびと飲み進めてみる。ちょっとお腹が不穏な感じになってきたので、少しだけでやめておくことにした。結局、コップ半分も飲めなかった。その後、下痢をしたりお腹を壊すことはなかったので、ヘンなものは含まれていなかったかもしれないが、慣れない雨水に体がびっくりしたのかもしれない。

それにしても、30年以上この地球上で生きてきて、雨水を集めて飲むのが初めて、というのはおかしな感じがするなぁ、と雨水を飲みながら思った。人工的なシステムに飼いならされてきた感じがした。水道をひねれば飲水がある、というのが当たり前の暮らしをしてきた。それは便利なことではあるけれど、それだけに頼り切っていると、いざというときに弱いし、野生の勘のようなものが衰えてくるだろう。この水は飲めるのかどうか、飲んでいいものか…真剣勝負で判断しなければいけないようなシチュエーションはこの現代社会では少ないかもしれないが、そういうときに的確な判断ができる人間でありたいと思う。

雨水は水道水よりも変化が激しいに違いない。その日、その時によって、含まれるものも、風味も違ってくるだろう。また雨が降り続くときに、2回目のチャレンジをしよう。1回目の結果がいまいちで終わったとしても、1回で止めてしまおうとは思わない。雨水ともっと親しくなりたい。そのためには、マメさが大事。