店の野菜を投げるように戻す人を見て。野菜にも気持ちは伝わる

家の野菜が少なくなったので、近所のショッピングモールへ買い物に行った。

産直のコーナーへ行くと、今年何度も購入した農家さんの美味しいナスが目に入って、よかったー、と思った。すると、反対側からやってきた女性がそのナスを手に取り、チラッと見たと思ったら、投げるようにカゴに戻した(!)。

こんなに美味しそうなナスなのに、と思った。値段しか見ていないのだと相方に言われ、なるほどそうかと思った。農薬無しで育った小ぶりのナスが5本くらい入って190円くらい。農薬と化学肥料を使ったもっと大きなナスがもっと安く売られていることはいくらでもあるだろう。その方にとっては高かったようで、手にとったあとの戻し方にはちょっとした「憎しみ」のようなものを感じて恐ろしかった。

野菜を自分で育ててみると、この栽培方法で、この質でこの量でこの値段だと全く高いわけではないことがよくわかる。むしろ、この値段で販売して生計を立てていくのは大変だろうなぁと思う。

それに、野菜はサイズだけでは測れない。化学肥料をたくさん投入すれば、大きな野菜が育つようだが、身体だけ大きくて中身はけっこうスカスカ、ということもある。野菜にはそれぞれ、ちょうどいい大きさというものがある。あまりに過酷な環境で育つと固くなったり苦くなったりするが、甘やかさずに適度な水と養分のある場所で育った野菜は味が濃くて少し食べると満足する。

モノや植物、動物、何に対してでも、人間の気持ちというのは伝わるものだと思う。その女性が戻したナスを買おうかどうか一瞬迷ったが、あと一つ残っていた別のほうのナス(同じ農家さんの)を買い物かごに入れた。その女性の邪気が入ったナスが気の毒だったが、それを完全に追い払う自信はなかった。

自分が発した気持ちは自分に返ってくることが多いと思う。ないがしろに扱い、面倒くさく思いながらつくった料理を食べると、その気持ちを自分に取り入れることになるだろう。

気持ちがすさんでいるときは、何をしてもろくなことがない。ぼくはそんなときはすぐに寝てしまうことが多いが、そういうわけにもいかないときは、なるべく気持ちが前向きになることをしながら、回復を気長に待つことにしている。


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by 硲 允(about me)
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