例えば、スーパーの棚に、薄い緑色のほうれん草と、ちょっと黒みがかったくらい濃い緑色のほうれん草が並んでいたとして、どっちを選びますか?
濃いほうが栄養価が高いように見えるでしょうか?
なぜかというと、緑色の濃い野菜には、硝酸性窒素が多く含まれている可能性が高く、これは摂取し過ぎると健康に害のある物質だといわれています。
硝酸性窒素は、「硝酸態窒素」「硝酸塩」「硝酸イオン」などとも呼ばれます。
その危険性について、金沢大学の研究(「市販緑葉野菜の硝酸およびシュウ酸含有量」)では次のように述べられています。
硝酸塩は食品加工において食肉製品の発色剤として使用されていることが知られているが,日本人は一日許容摂取量の約 1.5 倍の硝酸塩を摂取しており,そのうち 87%以上は野菜などの植物性食品に由来していると報告されている。硝酸塩を多量に摂取すると,一部が口腔内や腸内の細菌により亜硝酸塩に還元され,肉や魚に含まれるアミン類と結合して発ガン性を有するニトロソアミンを生成する。(下線は本ブログ筆者)
また、硝酸性窒素の摂り過ぎは、酸欠を起こして死亡することもある「メトヘモグロビン血症」の原因にもなるそうです。
環境省の資料(「未来へつなごう 私たちの地下水 〜気づいてますか?硝酸性窒素汚染」)にこう書かれています。
硝酸性窒素は、乳児の胃などではその一部が還元されて亜硝酸性窒素となります。亜硝酸性窒素は赤血球のヘモグロビンを酸化して、「メトヘモグロビン 」に変化させます。メトヘモグロビンになると、酸素と結合できず、血液中の酸素が少なくなり、酸素欠乏症を起こします。
環境省資料「未来へつなごう 私たちの地下水 〜気づいてますか?硝酸性窒素汚染」より |
通常、ヘモグロビンの一部が酸化作用によってメトヘモグロビンになっても、その後還元作用でヘモグロビンに戻るそうですが、乳児等の胃では亜硝酸性窒素が作られやすく、メトヘモグロビンが大量に生成されるため、血液中の酸素が少なくなって、最悪の場合は窒息死に至ることもあるとのこと。
WHOによると、1945年から1985年までの間に、硝酸性窒素による中毒症例が2,000 件あり、160 名の乳幼児が亡くなったそうです。アメリカで1980年代に、赤ちゃんが突然酸欠で真っ青になり、亡くなってしまう「ブルーベビー症候群」というのが発生したそうですが、これも硝酸性窒素が原因で、離乳食として緑色の濃い葉もの野菜をすりつぶして与えたことや、硝酸性窒素がたくさん含まれた井戸水で粉ミルクをつくったことによって発生したそうです。
日本ではブルーベビー症候群のような事故は起きていないとされているようですが、予防医学科学委員会会長(当時?)の能勢千鶴子氏が、『週刊朝日』(1998年3月6日号)で次のように指摘されているそうです。
生後6ヶ月未満の赤ちゃんが原因不明で突然死したケースのなかには、硝酸性窒素を多量に含んだ水で溶かした粉ミルクや、硝酸性窒素が多い野菜を使った離乳食を食べたことが原因だったと考えられるものがあります。
EUでは、野菜に含まれる硝酸性窒素の基準値を定めているそうです。日本では、水道水の水質基準に硝酸性窒素の項目が設けられているのに(1リットル当たり10ミリグラム以下)、野菜には基準値がないらしい…(日本人が摂取している硝酸性窒素の87%以上は野菜などの植物性食品に由来しているいわれているのに!)
欧米の離乳食や育児の本には、緑の濃い野菜は控えめにしよう、という記載がよくあるそうですが、日本ではその危険性がまだほとんど知られていないように思います。
野菜を育てるときに肥料を入れ過ぎると、硝酸性窒素をたくさん含んでしまうそうです。肥料というのは、化学肥料も有機肥料もそうで、「有機野菜(オーガニック野菜)」だからといって手放しで安心できません。
硝酸性窒素の摂り過ぎを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
- 肥料を使わずに育てた「自然栽培」の野菜を選ぶ
- 「有機栽培」でも肥料を必要以上に使っていないことがわかっている農家さんや、窒素分の少ない植物性堆肥を使用している農家さんの野菜を選ぶ
- 栽培方法が表記されていない場合もあると思いますが、とにかく緑色の薄い野菜を選ぶ
- 茹でて水にさらしてから食べる(上の金沢大学の研究では、春菊や小松菜を茹でて水にさらしたところ、硝酸性窒素の残存量はもとの50〜80%になったとのこと。水にさらす時間は1分くらいで十分のようです)
普段、「農薬」や「化学肥料」はなるべく避けるようにしても、「硝酸性窒素」のことはあまり頭に上りませんが、これにも気をつけていきたいなぁと思います。
【参考書籍】
野菜の裏側 ―本当に安全でおいしい野菜の選び方(河名 秀郎)