最近では牛肉を食べることは滅多にありませんが、子どもの頃も、油の乗った牛肉はあまり好きではありませんでした。「霜降り肉」というのは高く売られているようですが、そんなに美味しいとは思えませんでした。「霜降り肉」がどうやってつくられているかを知ると、それもそのはず…と思えてきます。
牛を放牧しておくと「霜降り」になるはずはなく、人工的に「霜降り」にしているわけです。牛の生後3か月くらいまでは乾草を十分に食べさせ、それ以降は、筋繊維の間に脂肪を入れるために極端に高カロリーの飼料を与え、必要最低量の乾草や稲ワラしか食べさせず、運動をさせないようにするそうです。
牧草にはビタミンがたくさん含まれていますが、「霜降り肉」にするために飼われている牛は牧草を自由に食べさせてもらえず、視力を維持するために必要なビタミンAが不足するため、なかには盲目になってしまう牛もいるそうです。それに、運動できずに太って、歩けなくなる牛もいるらしい…。
信濃毎日新聞の記事(2011年6月11日付)によると、和牛を百数十頭飼育している長野県北部の農家さんは「消費者が生産現場の現状を知れば、肉を買ってくれるか分からない」と話されたそうです。
この 30 年間、和牛を出荷する時、牛の背中に"お神酒"を掛けて送り出してきた。自分が生計を立てられることへの「感謝」。そして、高く売るために不健康な姿にさせる「申し訳なさ」。そうした複雑な感情を、牛を出荷するたびに確かめる。
背景にこんな現状があることを知りつつ「霜降り肉」を食べている人は少ないのではないかと思います。
高く売るために不健康な姿にさせる「申し訳なさ」・・・農家の人たちにそんな思いをさせてでも霜降り肉を食べたいという人はどれくらいいるでしょうか?
この記事にはこんな話も出ていました。
上伊那郡南箕輪村の酪農家、小坂忠弘さん(55)は、畜舎見学に来た小学生が、乳牛から乳を搾る現場を見て以来、牛乳を飲めなくなった、という話を数年前に酪農仲間から聞いて、頭から離れなくなった。思い当たることがあった。国内では、広い牧草地を確保しづらく、多くの時間は乳牛を畜舎内で飼育するのが一般的だ。しかし、小坂さんは「多くの人が広い牧草地だけで乳牛を飼っていると思っているかもしれない」。畜舎も小学生の予想以上に汚れていたのかも・・・。
牛乳のパッケージによくあるのは、広々とした牧場にいる健康そうな牛たち。でも、よく見ると、小さい字で「これはイメージ写真です」というような文言が書かれています。本当の現場の写真を見ると、牛乳を飲みたくなくなる人もいるでしょう。
食肉工場で働き出した友人が、「生肉は食べないほうがいい」と言っていたと、別の友人から聞いたこともあります。
先日書いた、種無しぶどうの話とも重なります。
種無しぶどうはこうして作られる。それでも「種無し」がいいですか? - 珍妙雑記帖
「種無しぶどう」のほうがよく売れるからといって、生産者が大変な作業をしなくてはいけなくなる。
問題は、「霜降り肉」にしろ、「種無しぶどう」にしろ、完成した商品の背後にあってお店では目に見えない作られ方や、生産者の想いを知ったうえで、それでも食べたいかどうか。
それでも食べたいという人もいると思いますが、実情を知ったら食べたくないという人もいるでしょう。まずは「知って」、「選べる」ことが大事だと思っています。