徳島県神山町まで歯医者に通っていて、その付近の森に隠れた謎の建物。
一度近くまで来てみたことがあったが、そのときは閉まっていて入れなかった。どうやら地元の人たちだけが入れる図書館のようだった。
今回は、「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」の開催期間中で、誰でも入れるようになっていた。
「神山アーティスト・イン・レジデンス」とは、1999年にスタートしたアート・プロジェクトで、毎年夏から約2ヶ月余り、海外や日本国内から3名~5名ほどのアーティストが神山町に滞在して、その期間中に作品を制作し、秋に作品展覧会を開くというもの。日本だけではなく世界のいろんな場所でこうしたプロジェクトが行われているらしい。
この建物は「Hidden Library(隠された図書館)」と名付けられ、こちらも「神山アーティスト・イン・レジデンス」で制作された作品(作者は出月秀明氏)。
中に入ってみると、ガラス張りで、木枠の窓から外の山景色が見えて心地よい。
薪ストーブもあり、ここで暮らせそう。
書棚にはまだ少ししか本が置かれていない。
入場料として、ポストカードセットを購入する必要があり、キーホルダー付きのセットを購入した。
「隠された図書館」をモチーフとした木のキーホルダー。その説明書きに、この図書館についてわかりやすく書かれていた。
記憶を共有もしくは追憶するための図書館、大きさは一部屋ほどの間取りで山の傾斜地にひっそりと建てられている。空っぽの本棚が整然とならび扉は閉ざされているが、住民だけが本をおさめて鍵を手に入れられる。おさめる本は人生で三回、卒業、結婚、退職のとき。何かを思い出すためとき、この図書館は必要とされる。
このキーホルダーは図書館の鍵につけるアクセサリーであり、それぞれ「表札」「窓」「入館札」を模して作られ図書館と寄贈者のつながりを示すものとなる。
本がまだ少ししかない理由がわかった。ユニークなコンセプトだ。これからの時代、卒業や結婚や退職をしない人が増えそうなので、ぼくなら人生の三回は自分の好きな時を選べるようにすると思った。
人生で3冊だけ…収められた1冊1冊に重みを感じる。
トルコから来られて今年滞在されたIrem Tokさんの作品。古い本の中身をくり抜き、そこに神山の昔の風景がミニチュアでつくられている。受付の方が懐中電灯をかしてくれて、照らしながら中を覗いた。
神山町では毎年アーティスト・イン・レジデンスが行われているので、毎年、町のあちこに作品が増えていっている。展示期間中、神山を走る車を見ると、遠方からもたくさんの人が訪れているようだった。地元の方たちもたくさん関わり、作品を展示する場所を整えたり、古い建物を修繕したり、いろんなところでつながりが生まれているようだ。古い酒蔵を改修した展示場で作品を見せてもらっていると、地元のおじさんが楽しそうにたこ焼きを差し入れする姿が見えた。山に囲まれた小さな町に国内外からアーティストが訪れ、国籍や言葉の違いを越えてコミュニケーションが当たり前のように生まれている。神山町の底力のようなものの一端を垣間見たような気がした。
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by 硲 允(about me)
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