『砥石と包丁の技法』(築地正本 監修)を読んで。包丁に詳しくなれる一冊

最近、包丁を研ぐようになり、もっと知識や技を深めたいと思い、図書館でたまたま見つけた『砥石と包丁の技法』(築地正本 監修)という本を借りてきました。



この本が刊行されたのは2010年。家庭で自分で包丁を研ぐ人が減っている昨今、ひたすら砥石と包丁の知識や技法を紹介するこのような本はかなり需要が少ないと思うけれど、よく出版されたなぁ・・というマニアックな本。すぐに大量に売れる類の本ではないだろうけど、長期的に見れば、砥石と包丁について体系的にまとまったこのような本は一定数のニーズがあるだろうし、そうした知識を求めている人にとってはありがたい本です。

包丁の研ぎ方について、ネットでいろんなサイトを見て勉強しましたが、プロのような方でも人によっていろいろなようです。この本では、刺身包丁、出刃包丁、薄刃包丁、洋包丁、それぞれの研ぎ方の手順や注意点が説明されていて、勉強になりました(ネットの情報では、こうした包丁の違いによる研ぎ方の違いまではあまり見あたらなかったので)。たまたまネットで見かけたいくつかの記事では、包丁を十把一絡げにして刃の表の方を裏よりも多く研ぐと書かれているものが多かったのですが、両刃の洋包丁は裏表を均等に研ぐのだとこの本には書かれていて、それはそうよなぁと思いました(早めに知っておけてよかった)。薄刃包丁というのは家庭ではあまり使われることがないと思いますが、この包丁の場合、しのぎ(刃先から遠い方)を研ぐと薄くなりすぎて包丁がこわれてしまうらしく、これも覚えておかねばと頭に入れておきました。

天然砥石の採掘現場(京都の大平砿山)の取材レポートも写真付きで載っていて興味深かったです。左右にゴロゴロと岩が詰み上がり、かつて岩を運び出すのに使われていたトロッコの線路が残る坑道はものものしい感じで、かつては坑道の入り口付近や道の枝分かれの部分などはダイナマイトで爆破したそうで、ダイナマイトの保管庫の写真も載っています。

砥石を買う際、よくわからない材料を使っている人工砥石よりも天然砥石の方が粉を口に入れてしまっても安全そうだし水の汚染も少なくて済みそうだと考えましたが、天然砥石の採掘現場の写真を見ると、人工砥石でもいいかなぁ・・という気がしてきます。人工砥石の材料をとっている現場がどうなっているのかわかりませんが、それを見れば、絶対に天然砥石じゃないと・・となるかもしれませんが。

荒砥(あらと)は天然のもので手頃に買えるようなものが見当たらなかったのですが、この本によると天然の荒砥は珍しいそうで、だからかぁと思いました。かつてはぼくの生まれた和歌山でも生産されていたそうですが(白浜町)、近年、採掘を終了したとのこと。

機能でいうと、家庭で研ぐには人工砥石で十分でプロでも人工砥石を使っていることが多いそうですが、ふぐを切るようなふぐ引包丁を使う料理人の中には、京都産の天然砥石の仕上砥でなければしっかり研げないという方がいたり、日本刀の研ぎの世界では「内曇」という天然砥石で仕上げ研ぎをすることが現在でも当たり前のことになっている、といった話も紹介されていました。

人工砥石は、研いでいるといかにも人工的な色の研ぎ汁が出てくるので、研いでいて気持ちがいいのは天然のほうです。天然砥石は見た目にも美しいものが多く、コレクターのような方もいるようです。この本にも高級な天然砥石の写真がたくさん載っていて、見ているだけでも面白いですが、もったいなくてそれで研ぐのは勇気が要りそうです・・・。

ところで、「包丁」という言葉の語原については今まで疑問に感じたこともなかったのですが、この本によると、古代中国、戦国時代の思想家である荘子の著書「荘子」に登場する料理名人「庖丁」の名から来ているそうです。

包丁の歴史から種類、選び方、研ぎ方、作られ方、砥石の種類・・・ふつうはほとんど何も知らないでなんとなく使っている包丁について急に詳しくなれる面白い本で、一気に読みました。


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by 硲 允(about me)
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