近所のイオンに行くと、イオンの独自農場で育った野菜も見かける。
イオングループの中に、「農業法人イオンアグリ創造」(千葉市)という農業法人があり、21か所の直営農場が国内にあるらしい。この農業法人で2015年に大卒の採用を始めたところ、数十人の採用枠に4,000人もの応募があって採用担当者やグループ幹部が驚いた、という記事を読んだ(「(波聞風問)持続可能な農業 若者が採用枠に集まる意味は 多賀谷克彦」朝日新聞デジタル 2018年10月30日)。
翌年からは採用枠を絞って説明会場を減らしたが1500人規模の応募があり、今年は採用枠を1桁台にしても応募者は500人に上ったという。
この記事で著者は「若い人たちは職業としての農業に魅力を感じていない。まずは、この定説から疑ってもいいのではないか」と締めくくっている。
ぼくの周りでも、「農」に興味を持つ人は確実に増えてきているように思う。ところが、プランター栽培、家庭菜園などは比較的簡単に始められるけれど、家計を支える「農業」となると、一気に難しくなる。農業一本で生計を立てている方たちの暮しを垣間見ている限り、なかなか大変そうだ。いつ休んでいるんだろう、と思うくらい毎日、朝から晩まで畑で作業したり車で作物を運んだり、目が覚めている間じゅう動き続けているように見える方もいる。今の時代、自営業の農業一本で生計を立てていこうと思えば、相当の体力と気力と知恵が要るように思える。
記事によると、新規就農者の実態調査でほぼ半数が課題として挙げたのが「所得の少なさ」や「休暇取得の難しさ」らしい。米農家でお米だけで会社員の平均収入くらいを得ようと思えば、かなり広大な農地でお米づくりをしなければならない、という話をお米屋さんから聞いたことがある。農協でのお米の買い取り価格が今年はこんなに安かった、というような話も聞こえてくる。慣行農法で作物を育て、農協に出して、という一般的な方法では、十分な所得が得られにくいシステムが固定化されているのだろう。かといって、有機農業や自然農法に取り組んでも、まだまだ需要は顕在化しておらず、独自に売り先を開拓するには時間やエネルギーや知恵が必要となる。農的暮らしや手仕事、移住・田舎ぐらしなどのテーマを扱う雑誌を見ていると、農業を始める若者がたくさん登場し、身近でもそういう方が増えており、都市的仕事一辺倒から農への流れは確実に進んでいるように見えるが、一方で、農に興味があっても、職業的不安から、農に関わる仕事や暮らしに踏み出せない方も多いのだろうと思う。
この記事を読んではじめて知ったが、労働基準法では、仕事が天候に左右される農漁業者の場合、労働時間や休憩、休日に関する規定が除外されるという。農業法人であっても、一般企業のような法定労働時間は適用されず、時間外給与は支払わなくてもいいということになっているらしい(林業は労働環境の改善のため、1990年代に除外対象ではなくなったとのこと)。これではたしかに不安になっても無理がないと思う。
一方で、農業法人イオンアグリ創造は、グループの就業規則を基本とし、時間外給与を支給したり、出産・育児休業をとれるようにしたり、雨続きで農作業ができない日が続く週は休日を多くして翌週以降に就業時間を振り替えるようにしたり、といった取り組みを行っているらしい。こういう体制が整っているし、大手で安心だからというのもあって、それだけ多数の応募があったのだろう。
農業に興味があったけど農業法人に入ったらブラックで、農業はもう懲り懲り、というのでは悲しい。人間の命の源ともいえる食の根本に関わる農業が低収入、というのがそもそもおかしいように思える。日本の食料自給率(2017年、カロリーベース)は、38%。国内で作物を育てるというのは、国民にとって重要で意義のある仕事である。その仕事に就きたいのに就業条件がわるくて、やりがいはあまり感じられないけど「安定」して給料はいい仕事を選ばざるを得ない人が多いのはもったいない(イオンアグリ創造の応募状況だけを見ても、そういう人は相当数いるのではないかと想像する)。農に興味のある人が、農に関わって生計を立てていける選択肢が増えていけばいいなぁと思う。
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