「陣痛促進剤 あなたはどうする」(陣痛促進剤による被害を考える会 編著)は出産に関係する人の必読書!

骨法の師匠のほねほね先生から聞いて、出産の際の陣痛促進剤がアトピーの原因になると知った話を書きました。

陣痛促進剤の危険性についてさらに知りたくて、「陣痛促進剤 あなたはどうする」(陣痛促進剤による被害を考える会 編著)という本を読みました。



本書の「はじめに」で、いきなり衝撃的なグラフが紹介されています。

助産所での時間別出生数(1984~2001年)を見ると、ほぼ横ばいですが、日の出の頃がやや多く、日没の頃にやや少なくなっています。ところが、病院や診療所での出生時刻(2001年)を見ると、午後1時から午後2時に極端なピークがあり、そこをピークにグラフは山型を描き、深夜や未明は少なくなっています。

さらに衝撃的なのは、日別(曜日別)出生数のグラフ(2001年12月)。平日に比べ、土日のお産が極端に少なくなっています。

これは、ほとんどの場合、医学的には使う必要がないのに、夜間や休日を避けて平日の昼間に出産を誘導するために陣痛促進剤(子宮収縮剤)を使用しているからです。

それによって、母親や胎児、新生児に何の問題も起きていないのであれば、まぁ仕方ないか…で済ませる人も多いかもしれませんが、実際には、陣痛促進剤の使用によって、母親が亡くなったり死産となったり、母親の子宮破裂、精神身体障害、子どもの脳性麻痺などの重大な副作用が報告されています。

1990年に全ての産科医に配布された「産婦人科医療事故防止のために」という冊子の前書きが、その被害を認めています。

医療技術の進歩が一般的な産科医療水準の向上に貢献し、異常の早期発見や正確な診断や治療に役だっているのであれば問題ない。しかし残念なことに現実は産科領域における医療過誤訴訟が増加傾向にあり、その中でも子宮破裂、弛緩出血などによる母体死亡や胎児仮死、新生児仮死、新生児仮死による脳性麻痺の症例が特に多い。(中略)当会の行っている妊産婦死亡調査でも死亡原因の中で子宮収縮剤使用後の子宮破裂、弛緩出血の占める比率は高い。また羊水栓塞による死亡例の中で子宮収縮剤を使用した症例が多いのも事実である。(中略)関連訴訟事件が多いことや保険請求面でも子宮収縮剤の使用が多いことからこれらの点に関して特に重ねて会員諸氏のご注意を喚起することを目的としたものです。

この文章では「子宮収縮剤」と呼ばれていますが、「陣痛促進剤」と同じ意味で使われています。「陣痛誘発剤」と呼ばれることもあり、陣痛がまだ始まっていない妊婦に対して陣痛を起こさせる目的で使用すれば「陣痛誘発剤」(または「分娩誘発剤」)、すでに陣痛が始まっている妊婦に対してさらに陣痛を強めさせる目的で使用するなら「陣痛促進剤」ということになり、いずれにしても子宮を収縮させるという作用は同じなのですが、使われる場面によって呼び名が変わるそうです。本の中の体験談で、看護師さんに「促進剤ですか?」とたずねたら「違います、誘発剤です」と回答されたという話が出てきました。知識不足だと、簡単にはぐらかされてしまいます…。

上の冊子では、

上述のように訴訟になった例や母体死亡例では子宮収縮剤を用いて分娩を誘発ないし促進している症例が多い。(中略)それら症例の中では誘発や促進の適応が不明なものが少なくない。

と続きます。つまり、陣痛促進剤を使う必要があったかどうかは不明だけど、重大な事故が起こった多くの場合において陣痛促進剤が使われていた、という実態を指摘しています。

この冊子の本文には、

医療施設側の事情によって計画分娩を行うことはトラブルのもとであり、決してすべきものではない。(中略)誘発は妊婦および児の利益のために行うという立場を忘れてはならない。

と書かれているそうですが、この冊子が配れてから約20年経った今も、このガイドラインが守られていることは少ないのではないだろうかと思います。

病院によっては、ほぼ全員に陣痛促進剤を使っているところがあるそうです。また、「子宮口を柔らかくする薬です」「血管確保の目的で点滴をします」といった説明だけで、陣痛促進剤を投与しているところも多いとのことで、こっそり投与するというのはおそろしい話です。この本が出版されたのは2003年で、少しは改善されたことを願いたいものですが…。

陣痛促進剤がこれだけおそろしい薬であるにもかかわらず、未だにそうした情報が人々にあまり届いていません。ぼくはほねほね先生から聞いて初めて知ったし、周りの人に話しても、「そんなの知ってるよ!」という返事が返ってくることはまずありません。

土日に子どもが生まれることが極端に少ないなど、お産が極端に操作されている事実が知らされていないし、学校でも習わないし、お産の雑誌や本、病院や保健所の母親教室などでも、当たり前のように使われる陣痛促進剤について触れられていることがほとんどないとのこと…。お産の本をパラパラ見ていると、病院などの広告だらけでびっくりしたことがあります。これでは、病院側に都合のわるいことを書けるはずがありません…。

お母さんは自然の陣痛をイメージして、呼吸法やラマーズ法の練習をします。また、マタニティ雑誌を読んだり、愛情を込めた胎教もするかも知れません。自然環境破壊から赤ん坊を守るため、妊娠中は食べ物に気を使い、たばこの煙や排気ガスから遠ざけたりもするでしょう。しかし、最後に病院でこの化学物質を投与されてしまったら、すべて意味がなくなってしまうかもしれないのです。(p.11)

病院の都合で、子どもを思う母親の気持ちや努力が踏みにじられ、母親や子どもが苦しめられたり死に至らしめられたりすることを、即刻止めなければなりません。

陣痛促進剤を使用すると、人件費を削減でき、薬価差益は増えるので、病院の経営には一石二鳥ということになるそうです。さらに、妊婦の子宮頸管や出口が十分に柔らかくなっていない状態で出産させるので、頸管熟化剤が同時に大量に使用され、会陰切開も併用され、薬漬け、手術漬けとなって病院の収入は増えるそうです。逆に、余計なことをせず、休日でも夜間でも自然の陣痛を待って、医療者が母子と気持ちを一つにしてくれるような価値の高いお産には医療費はほとんど支払われないのが現状、とのことで、そうしたシステムにも問題があります。現状を手っ取り早く改善するには、厚生労働省が医療費の単価を決めている「診療報酬の保険点数」を少し変えるのが効果的だと、本書は指摘しています。ちなみにアメリカでは、社会的適応で(土日や夜間の出産を避けたいなど、医学的に必要のない理由で)子宮収縮剤を使用することは産婦人科学会で禁じられているそうです。

日本では大学で陣痛促進剤を使った分娩しか経験せず、自然の安楽なお産を知らずに医師になる人が増えている、という話もおそろしいことだと思いました。お産に関するシンポジウムなどで、
「学生時代やインターン時代の実習で、陣痛促進剤を使ったお産ばかりを見てきた。そして医師になったので、陣痛促進剤を使わないお産をする気になれない」
「学生時代の実習は、すべて陣痛促進剤を使ったお産ばかりだったので、私は自然なお産を知らないまま助産師になりました」
といった声が聞こえてくるそうです。

「普通の妊婦はもっと痛がるのに、暴れることもなく、話しかけると冷静に答える。これは陣痛が弱すぎるからだ」という理由で促進剤が投与されて起きた事故もあるそうで、むちゃくちゃな話です。

上で挙げた冊子の中で、「陣痛促進の適応は微弱陣痛に限られている」と明確に書かれているそうです。微弱陣痛というのは、単に弱い陣痛、ということではなく、最初の弱い陣痛のことでもなく、お産の全過程において、その段階段階で起こるべき陣痛よりも弱い陣痛しか来ないという異常のことで、子宮口開大度、子宮内圧、陣痛周期、陣痛持続時間に関して具体的な医学的定義があるにもかかわらず、「微弱陣痛」の医学的意味を知らない医師・助産師が多く、そうした医師たちはだいたいの感じで微弱陣痛、ということにしてしまっているらしく、そんな医師に大事なお産を任せるわけにはいきません…。

この本には、悲しい被害を受けた母親や親族の体験談が収録されており、読んでいて泣けてきます。人間の新たな一生が始まり、新たな家族が誕生する出産の現場が、これほどむごく残酷な状況であることに怒りを感じずにはいられません。

運よく、重大な事故にあわなかったとしても、本来は必要のない陣痛促進剤が使用されたせいで、母親や子どもが本来ならもっと健康に元気に生きられたはずが心身にダメージを受けたり、アトピーなどで一生苦しめられることもあるわけです。不要な陣痛促進剤がいつどこで誰にどんな大小の不幸を与えているかは見えにくいものですが、人間の健康や幸福にデメリットしかない場面で使用するのは絶対に止めるべきです。

不幸な事故を事前に防ぐためには、慎重に病院・診療所・助産所選びをする必要があるでしょう。陣痛促進剤について、使用の方針を最初に詳しく聞き、納得できないような病院で出産するのは危険なことだと思います。

この本の最後に、「安全なお産のための基礎知識」がまとめられており、「陣痛促進剤を使うときの鉄則」が下のように列挙されています。

(1)最初から分娩監視装置を必ずつける。(できれば内測法が理想)
(2)筋肉注射や静脈注射、錠剤の膣内投与は絶対に拒否する。
(3)1時間おきに1錠ずつ飲む白い錠剤も陣痛促進剤(プロスタグランディンE2)なので注意。
(4)点滴の滴数調整にはインフュージョンポンプを使用する。
(5)点滴中は医師または助産師にそばにいてもらい、陣痛や胎児の状態を注意深く観察してもらう。
(6)分娩監視装置に表示されるデジタル数字(胎児心拍)をよく見る。正常値は1分間に120~160回
(7)正常な陣痛には必ず間歇期がある。間断のない連続した陣痛は過強陣痛の一種であり、子宮・胎児にとって危険信号。
(8)陣痛促進剤の副作用(過強陣痛・胎児心拍の異常など)と思われる症状が出たら、陣痛促進剤の点滴を中止し、酸素投与(マスクなど)を受け、体位を側臥位(横向き)などに変えてもらう。それで改善しなければ、ウテメリンなどの子宮収縮抑制剤の投与、胎児アシドーシス(血液が酸性に傾く)を抑えるメイロンなどの薬の投与、を受ける。
(9)それでもなおかつ高度除脈(胎児心拍100以下)が5分以上続くようであれば、急速遂娩(吸引分娩・帝王切開などその時の状況下で最も速く胎児を娩出できる方法)の対象となる。
(10)以上のことについて、事前に医師と確認しておく。

これらのことを一つひとつ医師に確認し、はぐらかしたり、意味がわかってなさそうだったり、うざがったりするようであれば、そんな病院のお世話になるのはリスクが高いでしょう。そんな病院からはおさらば、といっても、何軒おさらばしたら、信頼できる医師や病院に巡り会えるかはわかりませんが、いい病院に当たる確率は多分低そうなので、病院で出産を予定している場合、早めにリサーチしておくのがよさそうです(医師が変わったりすることもあるので、病院にかかる直前にも調べ直す必要がありますが)。

本書では、良い病院選びのためのチェックポイントも載っているので、これも引用しておきたいと思います。

[一般的なチェックポイント]
(1)患者の訴えに対してどれだけ耳を傾けるか。
(2)質問に対して、いやな顔をしないで答えることができるか。ごまかさないで医学的にはっきり説明できるか。
(3)立ち合い分娩を許可しているかどうか(密室医療の防止)。
(4)いざと言うとき手術が可能かどうか(一刻を争う時には転送が間に合わない)。
(5)熟練した助産師がどれだけいるうか。看護師・准看護師などが内診等の助産行為をしていないか。
(6)産後、母乳育児を優先しているか。
(7)希望者には母子同室を許可しているか。

[陣痛促進剤に関するチェックポイント]
(1)陣痛促進剤に関する質問に、いやな顔をせずはっきりと答えられるか。
(2)陣痛誘発・促進は医学的適応に限っているか。
(3)分娩監視装置やインフュージョンポンプがあるか。
(4)破水した時の対応はどうか。
(5)予定日超過した時の対応はどうか。
(6)帝王切開既往者に陣痛促進剤を使っていないか。

分娩予定日を超過したからといって安易に分娩誘発をする病院があるそうですが、そもそも予定日の根拠は科学的ではないそうです。やっぱりなぁ、そんなん、正確にわかるはずないやろ、と前から思っていました。予定日というのは、最終月経の始まった日から280日目とされているらしく、最終月経が始まって2週間目くらいに排卵したという条件で算出したものだけど、実際の排卵が遅れていたりすれば、見せかけの分娩予定日になるそうです。

予定日を過ぎて約2週間経つと、「過産期」といって誘発分娩の医学的適応になってくるそうですが、本質的には「予定日を過ぎたから」ではなく、「胎盤機能が悪くなってきたことを示すデータが出てきたから」使用するのが正しい医学的適応とのこと。予定日を1週間過ぎたくらいでは、産科学的にはまだ正常分娩期間内で「過産期」にはあたりませんが、予定日を超過したので「誘発しますか?」と病院で言われることがあるそうで、要注意です。予定日を過ぎても陣痛がこない場合、その理由の多くは単に「予定日が間違っていた」というだけのことで、予定日というのはおおよその予想に過ぎず、まともな医療機関では妊娠中に何度も予定日が変更されることのほうが当たり前、とのこと。ただし、「育ちすぎてしまう」というケースも中にはあり、胎盤機能が正常であるかどうかの確認が重要で、予定日を過ぎていれば、普通は1週間に2回くらい尿中のエストリオール(卵胞ホルモンの一種)を測定して、様子を見ていく方法がとられるそうです。

ブログの記事では書き切れませんが、知っておきたい情報盛りだくさんの一冊でした。人間の誕生に関するこれだけ重要な情報がろくに知られていないのは異常なことだと思いますが、日常の会話ではお産の具体的な話にはなかなかならない、というのもあるかもしれません。骨法、アトピーの話から、陣痛促進剤の危険性について、機会を見つけて伝えていきたいと思っています。知識は人を救う!…こともあるはず!


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by 硲 允(about me)