温泉での出来事

東京から香川に移住してから何年か、家のお風呂がなくて温泉通いをしていた。

しょっちゅう温泉に通っていると、時々ハプニングにも出くわす。

あるとき、体を洗っていると、背後の風呂に浸かっていたおっちゃんが大きな怒鳴り声をあげてびくっとした。「水飛んできとるぞ!」 ぼくのことかとも一瞬思ったが、向こうで体を洗っているおじさんのことだった。不愉快な怒鳴り方だったのに、その人は逆ギレするタイプではないらしく、「すいません」と振り返って頭を下げていた。

それから1分も経たないうちに、風呂に浸かったおっちゃんが再び怒鳴り声をさっきよりもさらに大きく出した。「水飛んできよるって言っとるやろ!」 水をコントロールできないおじさんは、今度も逆ギレすることはなく、再び申し訳そうにした。

1回あんなに怒鳴られてまた水を飛ばすとは、この場合、当然悪気があるわけではなく、シャワーのコントロールに問題がありそうだった。2回目に怒鳴られてもまだ平気そうだったので、3度目に水を飛ばしたら風呂につかったおっちゃんはどうなってしまうんだろうとヒヤヒヤしながら体を洗っていたら、やっぱり2度あることは3度ある、だった。

「また飛びよるぞ! いつまで洗っとんじゃ!」

思わず吹き出しそうになった。いつまで洗っとんじゃって…そこかい! 温泉で何時間体を洗おうが人の勝手なわけだけど、シャワーをコントロールできないおじさんはこんなことを言われてもなお、逆ギレすることはなく、申し訳なさそうにして、もう少しだけ洗ってから切り上げたようだった。