Sexy Boy

「香害」というのは困ったもんです。「香害(こうがい)」という言葉をよく(たまに、くらいかも)見聞きするようになったのは、最近のこと。化学物質過敏症のような方も増えているのだろう。香水とか、合成洗剤や柔軟剤のにおいとか、過敏症の人にとっては大きな問題になります。

ぼくは化学物質過敏症と診断されるほどではないかもしれませんが、敏感で、過敏といってもいいくらいかもしれません。自分で判断している分にはいくら重症でも病名を付けるかどうかは自分の勝手かもしれませんが、病院に行き、診断を受けてお医者さんが名付ければ、病名付きの病人ということになるわけですが、ぼくは病院の診断は余程のことがないかぎり受けないので、あくまで自称ということになりますが、自ら「~症」と名乗ることはしたくないので、「敏感です」で充分ということになります。

近くのホームセンターの車コーナーに行くと、いかにも毒物という感じの激しい色をした芳香剤が並び、鼻をさすようなにおいがしてきます。こんなものをわざわざ車に置いておく人もいるんだなぁ、と不思議になります。余計にくさいと思うのだけど、もっとくさいなにかを紛らわす必要があるのかもしれません。タバコのにおいとか、でしょうか。でも、タバコを吸う人は車の中がタバコのにおいになったところで気にしないのではないでしょうか。同乗者への配慮でしょうか。でも、タバコのにおいと、こんなきつい人工的な甘ったるいようなヘンなにおいが一緒になったら、さらにすごいことになりそうです。

車は新車だからといって最初は無臭、ということではなく、新品のときから車内はにおいます。いろんな化学物質や人工的な素材を使用しているので、そのにおいが揮発してくるのでしょう。車内にはプラスチックや繊維が使われ、それらに使用された化学物質は年月をかけて揮発しているのでしょう。家にしても、ビニールクロスを貼った室内のにおいはなかなか抜けません。窓を締め切ったままにしておくと、揮発した成分やにおいが充満してくるのがわかります。

ぼくは譲り受けた中古の軽トラに乗っていて、車の中の化学物質臭は気になるほどではありませんが、最近、宅配便で届く荷物に香水のようなにおいがついているのが気になっていました。宅配車両の中に設置された芳香剤のにおいでしょうか。宅配業者に連絡してみようかとも思ったのですが、そこまでしなくていいか、と思って様子を見ていました。

ある日、いつもの香水のにおいがするはずの宅配担当者さんからまた荷物が届きました。相方が受け取ったのですが、いつものにおいがしない、と喜んでいました。ぼくら以外にも気になっている人がいて、苦情を言ったのかもしれないと思いました。とにかく、ひと安心。と思っていたら、次に同じところから届いた荷物は、またにおいがしました。ということは、車内の芳香剤ではなく、担当の方が身につけている香水のにおいだろうと相方は推理しました。その可能性が高そうです。化学物質過敏症の方が逃げていきそうな人工的香料と添加物だらけの香水を、ぼくも高校生の頃に付けていたのを思い出しました。しかも、「Sexy Box」という、思い出すのも恥ずかしいような名前の香水です。ドン・キホーテをぶらついていたときに見つけ、キムタクが使用していると書かれたPOPを見て、これを選んだのでした。キムタクのファンだったというほどではないのですが、気になる存在ではありました。本当にキムタクが毎日つけていたとは考えにくいように思うのですが、高校生だったぼくはそんな疑いをもつことはありませんでした。青い四角い瓶に入った「Sexy Boy」。ちょっと大人になったような気分を味わいたかったのかもしれませんが、何せ、SexyなBoyです。大人にはほど遠いでしょう。そんな恥ずかしい思い出話を相方にした後日、近所のイオンの店内を歩いているとき、相方が「Sexy Boy」を見つけました。あったよ、と面白そうに教えてくれましたが、ぼくはそれを見て過去の自分を思い出すのが恥ずかしかったのか、相方を置き去りにして足早に店の出口を目指しました。