7月10日投開票の参院選の結果、改憲勢力が国会の議席の3分の2を確保しました。これで、改憲発議ができる体制が整ったことになります。
安倍首相は、選挙期間中は改憲の話題をなるべく避けていましたが、選挙が終わった途端、改憲するのは当たり前じゃないか、という姿勢を示しはじめました。
現行憲法のどこを変えようとするのか、それはこれから、衆参両院の憲法審査会の中で議論されるそうですが、まずは、国民の反発が少ない条項から始めるのではないかという見方があります。
そのうちの一つが、緊急事態条項(国家緊急権)。
これは何かというと、戦争、内乱、大規模な自然災害などの緊急事態において、国家の存立を維持するために、人権保障や権力分立を一時停止して、非常措置をとる権限のことです。
現行憲法にはありませんが、自民党の憲法改憲草案の第9章に、こう新設されています。
まず、人権保障や権力分立を一時停止できるような措置なわけですが、その発令条件が、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において」と、事態を例示しているだけで限定しておらず、法律でどうにでもできてしまう危険性が憲法学者らによって指摘されています。
「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と書かれていますが、「赤ペンチェック 自民党憲法改正草案」(伊藤真 著)によると、この規定は、「実質的にはほとんど人権侵害に歯止めをかける機能がないでしょう。緊急事態という名の下に、インターネットによる情報規制などを含め、どのような人権侵害も可能となるのです」とのこと。
最近読んだ岩波ブックレットの「憲法に緊急事態条項は必要か」(永井幸寿 著)にも、緊急事態条項(国家緊急権)のことがわかりやすく解説されていました。
この本では、国家緊急権の濫用の危険性として、(1)不当な目的で使われる、(2)期間の延長(一旦握った強大な権力を手放さなくなる)、(3)過度な人権制限、(4)司法の遠慮(裁判所が平時に比べて政府の判断を尊重し、市民の権利保護を抑制する)が挙げられています。
ナチス・ドイツでは、ヒトラーがワイマール憲法に規定されていた国家緊急権(大統領緊急令)を悪用して独裁を確立した経緯を読んでおそろしくなってきました。
2016年3月18日に放送された「報道ステーション」で、イエナ大学(ドイツ)のミハエル・ドライアー教授は、こう語っています。
古館伊知郎さんは、「日本で、ナチ、ヒトラーのようなことが起きるなんて到底考えておりません」と何度も断りを入れたうえで、しかし、今後、そのように悪用される危険性があることを訴えていました。
憲法改正の国民投票が行われるとしても、まだそれまで時間があります。一人ひとり勉強し、それを誰かに伝え、国民全体での議論を深めていくことが重要だと思います。
7月24日(日)に「香川で憲法をしゃべる会」を開催しますので、お近くの方はぜひご参加ください!
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安倍首相は、選挙期間中は改憲の話題をなるべく避けていましたが、選挙が終わった途端、改憲するのは当たり前じゃないか、という姿勢を示しはじめました。
sealdspost.comより |
現行憲法のどこを変えようとするのか、それはこれから、衆参両院の憲法審査会の中で議論されるそうですが、まずは、国民の反発が少ない条項から始めるのではないかという見方があります。
そのうちの一つが、緊急事態条項(国家緊急権)。
これは何かというと、戦争、内乱、大規模な自然災害などの緊急事態において、国家の存立を維持するために、人権保障や権力分立を一時停止して、非常措置をとる権限のことです。
現行憲法にはありませんが、自民党の憲法改憲草案の第9章に、こう新設されています。
第九章 緊急事態
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
まず、人権保障や権力分立を一時停止できるような措置なわけですが、その発令条件が、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において」と、事態を例示しているだけで限定しておらず、法律でどうにでもできてしまう危険性が憲法学者らによって指摘されています。
「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と書かれていますが、「赤ペンチェック 自民党憲法改正草案」(伊藤真 著)によると、この規定は、「実質的にはほとんど人権侵害に歯止めをかける機能がないでしょう。緊急事態という名の下に、インターネットによる情報規制などを含め、どのような人権侵害も可能となるのです」とのこと。
最近読んだ岩波ブックレットの「憲法に緊急事態条項は必要か」(永井幸寿 著)にも、緊急事態条項(国家緊急権)のことがわかりやすく解説されていました。
この本では、国家緊急権の濫用の危険性として、(1)不当な目的で使われる、(2)期間の延長(一旦握った強大な権力を手放さなくなる)、(3)過度な人権制限、(4)司法の遠慮(裁判所が平時に比べて政府の判断を尊重し、市民の権利保護を抑制する)が挙げられています。
ナチス・ドイツでは、ヒトラーがワイマール憲法に規定されていた国家緊急権(大統領緊急令)を悪用して独裁を確立した経緯を読んでおそろしくなってきました。
2016年3月18日に放送された「報道ステーション」で、イエナ大学(ドイツ)のミハエル・ドライアー教授は、こう語っています。
この内容はワイマール憲法48条(国家緊急権)を思い起こさせます。内閣の一人の人間に利用される危険性があり、とても問題です。一見読むと無害に見えますし、他国と同じ様な緊急事態の規則にも見えますが、特に(議会や憲法裁判所などの)チェックが不十分に思えます。このような権力の集中には通常の法律よりも多くのチェックが必要です。議会からの厳しいチェックができないと悪用の危険性を与えることになります。
何故一人の人間、首相に権限を集中しなければならないのか?首相が(立法や首長の指示など)直接介入することができ、さらに首相自身が一定の財政支出まで出来る。民主主義の基本は「法の支配」で「人の支配」ではあり ません。人の支配は性善説が前提になっているが良い人ばかりではない。民主主義の創設者たちは人に懐疑的です。常に権力の悪用に不安を抱いているのです。 権力者はいつの時代でも、常にさらなる権力を求めるものです。日本はあのような災害(東日本大震災)にも対処しており、なぜ今この緊急事態条項を入れる必要があるのでしょうか。
古館伊知郎さんは、「日本で、ナチ、ヒトラーのようなことが起きるなんて到底考えておりません」と何度も断りを入れたうえで、しかし、今後、そのように悪用される危険性があることを訴えていました。
憲法改正の国民投票が行われるとしても、まだそれまで時間があります。一人ひとり勉強し、それを誰かに伝え、国民全体での議論を深めていくことが重要だと思います。
7月24日(日)に「香川で憲法をしゃべる会」を開催しますので、お近くの方はぜひご参加ください!
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