「主婦」という古めかしい言葉について。

とある雑誌で、整理収納アドバイザーの仕事をしている女性が「主婦」として紹介されていた、という話を相方から聞いた。同じ雑誌で、別の特集では「整理収納アドバイザー」として紹介されていたという。

今回の特集では、「主婦」としたほうが、多くの読者と同じ立場の人間だと印象付けることができそうで編集側からするとそのほうが都合がよかったのだろう、と思った。相方も同じように考えたらしい。

勝手なもんだと思った。自分という人間を誰か他人に紹介してもらう際には、余程気をつけないと、相手の都合のいいように扱われて歪められてしまう可能性がある。

日本語の「主婦」に近い概念として、英語では最近は「homemaker」というらしい。home(家庭)をつくる人(maker)というニュアンス。

「主婦」という概念はいかにも古めかしい。これに代わるもっといい言葉はないものだろうかと相方と話した。

「主婦」というのはいつから使われ始めた言葉なのだろう。「主に」「婦人業」を行う人、ということだろうか。この言葉には、家事は女性がするもの、という前提が入っていて、それは今の時代には合わない。女性が家の外で働いて男性が主に家事をする場合もあるし、二人とも外で働いて家事を分担する場合もあるし、男性同士、女性同士のカップルもある。

そういう違和感を感じている人も多いと思うけれど、他にいい言葉がないので、「主婦」という言葉を使わざるを得ない場面も多いのではないかと思う。

言葉の概念や、その言葉が想起させるイメージは、その言葉がどう使われてきたかによって定まってくる。敬意や尊厳の気持ちを込めて「主婦」という言葉を使う人も中にはいると思うが、「お金を稼ぐ仕事をせずに家事だけをしている女性」として軽々しく扱う言葉になってしまっているように思う。

そもそも、「家事」を低く見る向きがあるが、誰かが家事をしなければ家庭はまともに成り立たず、家事は非常に重要な仕事である。「家事代行ビジネス」というのもあるくらいで、他人や業者に頼めば金銭のやりとりの発生する仕事になるが、家庭内で自力で行えば金儲けにはならないということで外に働きに出ることよりも低くみなすのはおかしいと思う。「主婦」という言葉は、男性が女性を都合よく虐げるために使われてきた感じも否めない。家の外で働いてお金を稼いでくる男性のほうがエラく、働きに出ていない女性は家事を全部(ほとんど)して当然、だという考えの枠内にある言葉だという感じがする。家事を全部外注すれば、いくらかかるだろう。その金額は、外に働きに出ている男性の稼ぎよりも多いかもしれない。金銭に換算して、多く稼いでいる者がエラい、というはずはないが、お金儲けにならない家事をしている女性が低くみられ、家事という大事な仕事を行っていることを正当に評価されないのはおかしなことで、その鬱憤のツケは男性にも回っているはずだと思う。

「家事」というと、特別な能力のいらない面倒な作業、というイメージをもっている人も多いかもしれないけれど、やりようによっては、とてもクリエイティブな仕事だと思う。料理にしても、片付けにしても、掃除にしても、奥が深い。その仕事は、人間の健康や、暮らしの快適さ、人生の生産性を左右する。「家事」というのは、体も頭も心も使い、人間の能力をフル活用できる余地のある大きなジャンルだと思う。家事を本気で行えば、ただの「雑用係」ではなく、偉大な「クリエイター」になれる。

「主婦」の代わりの言葉を相方と話し合っているときに、ぼくが最初に言ったのは「暮らしの全方位型クリエイター」。「ど大層」のは承知のうえだけど、多くの「家事」を引き受ける人間がナメられていることへの反感を込めて。

「家事」という言葉も、古めかしいイメージがつきまとうので、ぼくは「暮らしの仕事」と読んでいる。ぼくはお金を稼ぐパソコン仕事よりも「暮らしの仕事」のほうが好きな場合が多い。「家事」と「仕事」で分類すると、お金を稼ぐ「仕事」のほうが上に位置するように思われがちだけど、ぼくは「暮らしの仕事」もお金を稼ぐ「仕事」も同じ「仕事」だと思っている。何が重要かは、その中身による。お金を得るためのくだらない仕事もあれば、人生のクオリティを左右する大事な「暮らしの仕事」もある。もちろん、お金を得ることにもつながる、大事な仕事というのもある。

言葉の概念に惑わされず、一つひとつのことを本質的に捉えるように心掛けたい。そして、自分にしっくりこない言葉を使わない人が増えれば、古めかしい言葉は早々に滅びていくだろう。


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by 硲 允(about me)
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