「ビッグイシュー」を初めて読んだのは、三鷹の「たべもの村」という食堂でたくさんバックナンバーが置いてあるうちの一冊を手に取ったときだったように記憶している。
そのなかに、表参道でビッグイシューを販売しているホームレスの方へのインタビュー記事が掲載されていた。料理人として仲間と一緒に独立しようとしていたとき、その仲間が自分たちの資金を持って姿をくらませ、ホームレスになってしまったということだった。その仲間を追うことはしなかったという。
当時、表参道のスポーツジムに通っていて、渋谷駅からいつも歩く道で、ビッグイシューを掲げている人がいたのを思い出した。あの人かもしれないと思った。
次回、そこを通りかかったとき、ビッグイシューの最新号を1冊買った。
「あのぉ…料理人の方ですか? 記事読みました」
やっぱりそうだった。
「がんばってください、応援してます」
そのときに見せてくれた笑顔が今でも鮮明に思い出せる。こんなにいい顔をした人はめったにいない、と思った。
それ以来、ぼくはそこを通るたびに、ビッグイシューを買った。その方を応援したいという気持ちもあったが、ビッグイシューの記事自体が面白かった。自然エネルギー、環境問題、なりわいづくり、放射能のこと…不思議なほど、そのときどきに自分が興味のあることが特集されていた。
夏のかんかん照りの日や、冬の凍えるような日にも、その方は、辛そうにしながらも路上に立たれていた。心配になるほど具合のわるそうなときもあった。
相方が先日、東京に行ったときにビッグイシューを買ったという話を聞いて、その方を思い出した。東京を離れてからもうすぐ2年。今もあの場所に立たれているのだろうか…。久しぶりにビッグイシューを読みたかったが、相方は必要そうな人にあげたという。
ビッグイシュー日本の代表、佐野章二さんの『ビッグイシューの挑戦』という本を昨日読み終えた。
日本のビッグイシューは創刊前、専門家たちから絶対に失敗すると言われていたらしい。若者の活字離れ、情報の無料化、路上で雑誌を売買する習慣がないこと、わざわざ好んでホームレスの人から買わないであろうことなどが、そう言われた大きな理由だったという。
しかし、日本のビッグイシューは成功した。購読者層は、30代が多く、女性が全体の7割を占めるという。2003年9月に創刊したビッグイシューは今年で12年目になる。その間、多くの人たちがビッグイシューの販売によって路上生活を抜け出したという。
そして、佐野章二さんはこう言う。
「私たちの事業を支えてくれたのは、実は数万の読者である」
「寒い日も暑い日も路上に立ち、辛抱強く雑誌を売り続けてくれた良きビジネスパートナーの販売者のみなさんに、ありがとう」
「ビッグイシューの挑戦」という一冊には、無理と言われても自分の信念を貫いて新しいものを生み出して行くエネルギーの詰まっている。読んでいて心があたたかくなると同時に、力が沸いてきた。
ビッグイシューの挑戦(佐野章二)
by 硲 允(about me)
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