天日干しで、足踏み脱穀機や唐箕で稲の脱穀。昔のやり方にこだわるのはなぜか?


先日、千歯扱き(せんばこき)足踏み脱穀機で稲を脱穀した話を書きましたが、なぜコンバインではなく、昔の道具にこだわるのかについて書いてみたいと思います。

コンバインという名は、英語の"combine(組み合わせる)”からきていて、つまり、稲刈りと脱穀を両方一度にしてしまう機械ということです。

近所の農家さんは、「コンバインでやっちゃるで。これくらいの広さやったら一瞬や」「この田んぼやったら、(機械を使ったら稲刈りから始めて)5分で全部白米になる!」などと言ってくれるのですが、「機械を入れたら土が固くなってしまうらしいんで〜」と丁重にお断りしています。

重たい機械で田んぼの中を走り回ると、地面を踏みしめて、土が固くなってしまいます。一般的な田んぼに、稲が植わっていないときに入ってみるとよくわかります。スコップで掘るのも大変なくらいカチカチです。自然栽培でりんごを育てることに成功した木村秋則さんも、取材でたくさんの人が畑に入ったので土が固くなってしまったということを本に書かれていました。人ですらそうなのですから、重たい機械ならなおさらです。

そして、コンバインを使うと、稲かりから脱穀まで一気に行うので、天日乾燥ができません。はざ掛け(地方によっては「はぜ掛け」などともいいます)して天日干ししている田んぼは今ではごく少数派ですが、近所でもちらほら見掛けます。おそらく、自家用につくっているところがほとんどでしょう。除草剤を使わないので草が生え、ときどき田んぼの中に入って手で草とりしている田んぼも見掛けます。こちらもおそらく自家用が多いでしょう。農家の方たちは知っているんです。売り物は効率よく、農薬や化学肥料を使い、コンバインで手早く収穫しますが、自分が食べるのは、農薬や化学肥料を使っていないほうがいいし、天日干ししたほうが美味しいと。

最近の乾燥機は性能がいいから、乾燥機でも天日干しと同じようにできる、天日干しが美味しいというのは気のもんだ、という意見もありますが、機械の熱風で乾かしたお米と、太陽の光と熱で乾かしたお米、どっちが食べたいかというと、ほとんどの人は後者でしょう。

天日干しのほうが機械乾燥よりも美味しいことを科学的に証明した論文もあるようです。

CiNii 論文 -  米の天日干し及び熱風式機械乾燥の乾燥手法の差異が品質に及ぼす影響

天日で干すと、刈り取ったあとにさらに追熟し、最適な水分量になるまで自然に乾燥させることができます(水分量は、14.5~15%がいいと言われています)。それに、茎にある栄養分が籾に送られるようです。

その一方、コンバインを使った場合、まだ水分量が多過ぎるので、脱穀したあと、乾燥機で乾かします。お米に熱を加えるわけです(風送だけで乾かす場合もあるようですが)。籾というのは生きもので、来年までおいておくと、種籾としてまた芽を出すわけですが、高温で乾燥させるとお米が死んでしまうこともあるでしょう。天日乾燥したお米を流しでとぐと、こぼれてしまったお米が芽を出します。高温乾燥してそうなお米ではそういうことが起こらない。

機械を使うと一見、効率がいいように見えますが、コンバインや乾燥機は石油などで動かします。その石油はどうやってやって来たかというと、掘る人がいて、精製する人がいて、運ぶ人がいて、販売する人がいて・・・その背景にはたくさんの人の労働があります。稲を刈る人は、お金を払って機械と石油を買えば、作業が効率化されているように思えますが、その機械にしても、誰かが設計して、部品を製造し、組み立て、広告して、運んで・・・見えないところでたくさんの人の労働があってようやく使えます。そういうことを考え合わせると、機械を使わずに手で作業するのが一番効率がいいというようなことを福岡正信さんが本に書かれていたのを思い出します。

機械や石油に関わる仕事が楽しくてそれが自分の生き甲斐で使命だと思える人はいいと思いますが、つまらないのに生計を立てていくために産業の歯車になって一生を終えるのは悲しいことです。青空の下で、鎌一本で働き、自分の食べものを育てるのは、身体がきついこともありますが、楽しくやりがいのある仕事です。

嫌な上司の相手をして、自分が欲しくもない商品を売り手伝いをして、体調をわるくして朝から晩まで働くよりも、鎌一本で朝から夕方まで草刈りし続ける暮らしに惹かれるのは少数派でしょうか。できることならそのほうがいい、という人もいるでしょう。世間の価値観や常識や自分のプライドや物欲を捨て去れば、日本の地方で再スタートすることは可能です。周りにもそういう人が増えてきています。

ぼくはずいぶん好き勝手をさせてもらっています。自分の望まない暮らしを抜け出したけどなかなか一歩踏み出せない、という人を応援するようなこともしていけたらなぁと思っています。

人生、人それぞれ。みんな自分の好きなこと、楽しいことをしてそれでお互いに調和がとれていれば、「人それぞれやね〜」と自分のことだけに集中していたらいいと思いますが、いろんな条件や偶然が重なって、恵まれている人もいれば不運な人もいる。ぼくもいろんな人に助けられ、教えられ、導かれてきました。自分の力量を知りつつ、できることはしていきたいなぁと思うこの頃です。
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足踏み脱穀機や唐箕は、ヤフーオークションなどで中古でも買えますが、新型のものも販売されています。