移住後の近所づきあい

東京から香川に移住する際、気になることの一つは近所づきあいだった。

東京のアパートで暮らしていた頃は、隣りの部屋の住人の顔を2回くらいしか見たことがないということもあった。ドアを開けて外に出るのと同じタイミングで、隣りの部屋の長細いドアノブが回る。しかし、ドアノブは45度回転した位置で停止したままだ。どうやら、顔を合わせるのが気まずいらしく、こちらが通り過ぎるのを待っているらしい。そんなこともあった。

今住んでいる家を借りるときの契約書に、自治会に入り、地域の活動に参加すること、というような項目があった。自治会というのは厄介なこともありそうだが、ゴミを捨てるにも自治会ごとのゴミ捨て場に持って行く必要があり、入らないわけにはいかないように思えた。

向かいの家の方に相談しに行った。おくさんが出てきてくれた。

「恒久的に住むんやなかったら、入っても出るときにいろいろ厄介やから、入らんでもええで」

意外な答えだった。ゴミ捨て場の使用については、自治会長さんに相談に行くことになった。お向かいのおくさんが途中まで歩いて道案内してくれた。

自治会長さんにも、自治会に入れとは言われず、あっさりとしていた。「ゴミ捨て場の掃除とか、順番でやってるんだったらやります」と言ったが、マナーがいいらしく最近は掃除の必要がないという。

お向かいさんとは、時々野菜を持ってきてくれたり、こちらも何かを持っていったりという関係が続いている。春に同じ敷地内のお隣さんが引っ越してきたときに一緒に挨拶に行った。庭の一角にフキノトウが群集していた。
「立派なフキノトウですね」
「食べるんやったら、今度玄関に放り込んどく」
一週間が過ぎた頃、玄関の前にビニール袋に入ったフキノトウが置かれていた。葉っぱを取って茎だけにしてくれていた。お返しに何を持っていったか忘れたが、だんなさんが「海老で鯛を釣ったようなもんや」と言われた。そう言ってもらうほど大したものではなかった。

夏の暑い日、玄関を入ってすぐの応接間のテーブルで原稿を書いていたら、檜のウッドチャイムの音がした。ご近所の女性の方がピーマンとキュウリを持ってきてくれた。それがお向かいのおくさんだということがしばらくわからず、それが明らかな対応をしてしまったが、嫌な顔ひとつされなかった。

家の隣りにはビニールハウスがあり、若い男性が有機栽培で野菜を育てている。近距離で会えば挨拶し、ひと言ふた言、言葉を交わす。

田畑は別として、家の周りの近所づきあいには、ありがたいことに何の苦労もない。

話に聞くかぎりでは、同じ(香川県)綾川町でも、近所づきあいがどれだけ密かは場所によるらしい。移住で家を探すとき、県単位、町単位でまずは見て行くことになるが、家の半径50メートル、あるいは100メートル以内にどんな人が住んでいて、どんな場所があり、どんな雰囲気が漂っているか、それを肌で感じ、しっかりと見定めることが大事だと思う。


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by 硲 允(about me)
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