5年ほど前、作家の志賀直哉氏の、感じたことを感じたままに書く文章に触れ、それを読んだぼく自身、自分の感情の動きに前よりも敏感になったのを感じました。
その頃から、ぼくはツバメノートに日記を書き始めました。日記といっても、その日に何をしたかという記録というよりも、何を考え、何を思い、何を感じたかをなるべくそのまま書く練習をしました。
それは自分と向き合う時間です。静かな場所で、誰にも邪魔されず集中できるときでなければできません。気合いの入るペンを持って、じっとノートと向き合う…
特に何も書きたいことが浮かばなくても、何かしらそのときに感じていることがあるはずなので、とりあえずそれを言葉にしてみます。「ノートに書くのは久しぶりだ。このところ仕事に追われ、頭がかき乱されて気持ちが一点に集中しない。激しい雨音が聞こえるが、この部屋の中は平和だ」。たとえばこんな感じ。
そして、次に浮かんでくる言葉をじっと待つ…
そうやっていくうちに、ノートに向かう前には思いもよらなかったことが書けることがあります。自分の外側にある情報をいったん遮断し、自分と向き合うことで生まれてくる言葉というのがあります。そういう言葉というのは、書いていて自分の気持ちが充実し、エネルギーがわいてくるのを感じます。
パソコンでも構わないと思いますが、こういう書き方をするとき、ぼくはノートのほうが合っています。自分と向き合いながら、まだ白紙のノートをじっと見つめることになるので、画面でそれをすると無意味に目が疲れてしまいます…。それから、パソコンの画面というのは、ネットに接続しながら見ることが多いので、その向こうには自分以外のたくさんの人がいるような感じがするもので、自分とじっくり向き合うにはノートのほうがいいように思います。